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Not Invented Here 症候群 : お前のアイディアがそんなに優れているはずがない

コピーキャット―模倣者こそがイノベーションを起こす』という本を読んで知った NIH症候群について、その影響を調査した論文を読んでみたのでそのまとめです。

edx.hatenablog.com

そもそも Not Invented Here 症候群とは

Not Invented Here 症候群(以降 NIH症候群と略します)とは、第三者が生み出した技術や製品、アイディアを「ここで発明したものではない」という理由から使用しなかったり軽視したりする症状を指す用語です。

車輪の再発明」と同様、一般的に非効率的な心構えとして軽蔑的に用いられます。

参考:NIH症候群 - Wikipedia

研究開発プロジェクトにおける NIH症候群の影響

今回読んだ論文『Investigating the Not Invented Here (NIH) syndrome』(記事末尾に詳細)は、研究開発プロジェクトにおける NIH症候群の影響について書かれたものです。

メンバーの移り変わりが少なくメンバーの平均在籍期間の長い研究開発プロジェクトでは、NIH 症候群により自分たちの優越性を過信し、プロジェクトにとって有用なコミュニケーションの量が減る。その結果、プロジェクトとしてのパフォーマンスが低下する、という調査結果を示しています。

(混乱しやすいのですが、問題になっているのは「プロジェクト自体の期間」ではなく「プロジェクトに在籍しているメンバーの平均在籍期間」です。)

メンバーの平均在籍期間と研究開発プロジェクトのパフォーマンス

メンバーの平均在籍期間が3年前後のプロジェクトのパフォーマンスが最も高い、という結果が得られました。
(プロジェクトのばらつきは大きく、調査対象のプロジェクト数(50)もそこまで多くはないので3年という数字にそこまで大きな意味はありませんが。)

この原因は、期間がこれより短い場合は、チーム上手く固まらないためにパフォーマンスが低いため、逆に長くなりすぎると NIH症候群の影響で有用なコミュニケーションの量が減り、パフォーマンスが低下するため、と考えられます。

研究開発プロジェクトの種類と減少するコミュニケーションのタイプ

この研究調査では、コミュニケーションの種類を6種類に分けてそれぞれの量を調べています。

種類名 コミュニケーション対象
Intraproject プロジェクト内のメンバー
Departmental プロジェクト外の、同じ研究部署に所属する同じ専門の研究者・技術者
Laboratory プロジェクト外の、同じ研究部署に所属する異なる専門の研究者・技術者
Organizational プロジェクト外の、同じ会社の技術者・研究者以外の人(マーケティング部・製造部の人など)
Professional 大学、コンサル企業、職能団体などを含む組織外の専門家
Operational ベンダーやサプライヤーなどを含む組織外のビジネス領域の人

また、プロジェクトの種類は研究、開発、テクニカルサービスの3種類に分けています。

この分類をもとに、どの種類のプロジェクトでは、メンバーの平均在籍期間が長くなると、どのようなタイプのコミュニケーションの量が減るのか、ということが調べられ、以下の様な傾向がわかりました。

  • 研究プロジェクトでは、組織外部の専門家とのコミュニケーション量が特に減少する
  • 開発プロジェクトでは、組織内部の研究開発職以外のメンバー(マーケティング・製造部門の人など)とのコミュニケーション量が特に減少する
  • テクニカルサービスプロジェクトでは、プロジェクトメンバーとのコミュニケーション量が特に減少する

特にわかりやすいものは研究プロジェクトにおける外部専門家とのコミュニケーション量の低下ですが、それぞれのプロジェクトに最も必要と思われる種類のコミュニケーションの量が減っています

開発プロジェクトとテクニカルサービスプロジェクトも、上に挙げた「特に減少した種類のコミュニケーションの量」を固定してパフォーマンスを分析した場合にはパフォーマンスの低下が見られなかったという結果がでており、減ったのは必要なコミュニケーションだったということが裏付けられています。

他の種類のコミュニケーション量も低下する傾向がある中で、特に減少した種類のコミュニケーションの量を補正するとパフォーマンスの低下が抑えられたということは、コミュニケーション量全般自体の低下が問題なのではなく、批判的な評価、情報、フィードバックを与えてくれる情報源からの孤立化がパフォーマンスの低下を生む、ということです。

NIH症候群と個人への影響

同論文で挙げられていた別の研究の結果として、同じプロジェクトへの在籍期間が長くなるほど、そのプロジェクトでの新しい技術的課題に対しての反応が悪くなり、手持ちの技術や戦略、習慣に強く依存するようになるということが示唆されています。


感想

プロジェクトにとって最も必要と思われる種類のコミュニケーションの量が減る、というのが興味深いですね。知識と経験を身につけると、それに満足してしまい学習意欲をなくしてしまう、自尊心や怠慢から批判的な意見と距離を置こうとしてしまう、ということなのでしょう。

組織やグループの編成を考える立場にはいませんが、個人として、もしくはメンバーの1人として、NIH症候群に陥らないよう気をつけたいものです。私はプログラマなのですが「なんだか良いツールがあるみたいだけど、使い方がよくわからないから独自ツールを作ってしまおう」とすることが度々あります。そういう時にきちんと、外で開発されたツールの使い方を学び、良い所・悪い所を見極めたうえで使用するかの判断をするよう心がけたいものです。

参考

Katz, Ralph, and Thomas J. Allen. "Investigating the Not Invented Here (NIH) syndrome: A look at the performance, tenure, and communication patterns of 50 R & D Project Groups." R&D Management 12.1 (1982): 7-20. (PDF)