読書メモ:『Values at Play in Digital Games』
3行まとめ
- ゲームは、ストーリー、キャラクター、選択可能な行動とその結果・報酬、NPCや環境との相互作用、他プレイヤーとの関わり方など、いろいろな要素を通して、ある種の価値観の形成をプレイヤーに促す効果がある(ただし、同じゲームでもプレイヤーの置かれた状況や受け取り方によって何を感じるかは異なる)
- ハードウェアやミドルウェアといった中立に見えるシステムでも「どのようなことが実現できるか、実現しやすいか」といった観点で、制作者の意図に関わらず特定の価値観を促進していることがある
- ゲーム制作関係者は、発見(どのような価値観を伝えたいのかを見つけて、定義する)、実装(その価値観をゲーム中の要素で表現する)、検証(実際にその価値観が伝わるかを確認する)を繰り返すことで、作成したゲームが自分たちの意図した価値観を伝えられること、意図していない価値観が紛れ込んでいないことを確認できる(するべき)
Values at Play in Digital Games (English Edition)
- 作者: Mary Flanagan,Helen Nissenbaum
- 出版社/メーカー: The MIT Press
- 発売日: 2014/07/25
- メディア: Kindle版
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"価値観"という要素も、ゲームのデザイン・実装・検証のプロセスに組み込みましょう、そのためにはこういう方法があります、という類の本。学術的というか「お堅い」感じのする本ではありましたが、ゲームが持つシステム面がもたらす"価値観"についても考える、というのは興味深く感じました(キャラクターやストーリーなどに目を向ける点は、アニメや漫画もあまり変わりません)。
現実として一般の商業目的のゲームが"価値観"について考えてデザインされているのかはわかりませんが、その軸で自分の好きなゲームについて考えてみるのも面白そうです。
システムが持つ価値観の一例
- 報酬:他プレイヤーへ助言・協力といった"寛大な行動"に経験値などの報酬をつけた場合、それは真に"寛大な行動"と言えるのか。逆に報酬がない場合、プレイヤーに友情やチームワークといった社会的な報酬を促していると言えるのか。(generosity を "寛大な行動" と訳していますが、少し違和感…)
- 選択・戦略の優位性:どのような選択をするとゲーム内で優位な状態に立てるのか、倫理的な行動が報われるのか、他者を犠牲にするほうが有益なのか
- インターフェース:例えば視覚・聴覚・身体にハンディキャップがある人でも遊べるようなインターフェースを持っていれば、それは平等性やアクセシビリティといった価値観を表している言えるかもしれない
- ハードウェア:インターフェースと同じく、コントロール方法や繋がるコントローラの数などで、できること、しやすいことが決まり、その上で動くソフトウェアの方向性を決める力がある
参考リンク
- Do Artifacts Have Politics(PDF):技術システムの制作者は、そのシステムの機能的、物質的な性質を検討するのみならず倫理的、政治的な性質も認識しなければならない、と論じた記事。1980年。
- Values at Play:この本の母体のプロジェクトのページ
- Grow a Game:ゲームの価値を考えるための種に使えるカード一式。価値カード、動詞カード、ゲームカード、課題カードの4種類があり、例えば価値カードとゲームカードを1枚ずつ引いて、その価値を表現するためにそのゲームをどう改変すればよいか考える、といった使い方がある