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本やゲームの感想など

小説感想:『百年の孤独』

なんと言えばいいのか…。

正直なところ、面白くはなかったです。つまらなかったかというとそれも何か違う感想な気はするのですが、シンプルにストーリーを楽しめたということはなく、独特の雰囲気を感じることができた、という印象です。

村上春樹を読んで「つまらなくはなかったけど意味はわからん…」と感じたのと似ているのかなと思います。文学作品の有識者に聞かれたら怒られそうな雑な感想ですが、まぁ自分の感受性はそんなものということで。

劇的な何かがある訳ではなく、淡々と、しかし決して正常ではないエピソードが幾つも積み重ねられる形で、ある町と一族の100年の歴史が語られます。

多少の栄枯盛衰はあるものの、それは単に時代の流れであり、登場人物の勝利や敗北ではないため、ストーリーとしての盛り上がりはありません。世代交代の中で繰り返されたり繰り返されなかったりする何かを、遠くから眺めているような、そんな感じでした。

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)

ゲーム感想:『ファイアーエムブレム 聖魔の光石』

2004年10月7日にGBAで発売された作品。

なぜ今更こんな昔のゲームをプレイしたかと言えば、『ファイアーエムブレム ヒーローズ』がルナティック制覇まで終わり、やることなくなったしもういいかな(ストーリーがあってないようなものだったし、改善する気はしないし…)、と思ったときに 3DS のアンバサダー特典で貰ったものをクリアしていなかったことを思い出したので。

フリーマップでレベル上げ可能で難易度が低め、という評判の作品ですが、最近の戦闘中に死んでも問題がない(という設定ができ、楽できるならば楽しよう精神でそれを使ってプレイしてしまった)FE と比べるとやっぱり緊張感はありました。

主力のレベルをそれなりに上げていて大抵の敵が瞬殺できる戦力でも、突発的に沸いて出てきた増援に急襲されて NPC や弱いキャラクターが殺されてリセット、ということもちらほら。ラスボス戦でも、ボスはその場で動かないでしょ、と思い周りを囲んで次のターンで集中攻撃して倒そう、と準備してたら普通に動いてきて壊滅させられましたし。

「くそ、ここはこうしておくべきだった、もう一回」みたいなリトライをする感覚は久々でした。増援がいきなり現れること自体は理不尽系の初見殺しに分類されるタイプだと思いますが、対策自体は容易なのでそこまでストレスではなかったです。とは言え、時間と心に余裕がないときにプレイしていたら怒り狂っていたかもしれません。

「殺されたらそこまで」という設定は否応なしにキャラクターを大事に、きちんと考えなくて行動しなくては、と思わせますね。

エイリーク編をプレイし、最終的なメインはエイリーク、ルーテ、アスレイ、ターナ、アメリア、ネイミー、コーマ、それに再行動のためのテティスと回復役(で最後までクラスチェンジに到達しなかった)ナターシャ。

あまり支援会話も発生させられなかったので、ストーリーもキャラクターも「こんなもんかな」というくらいの印象でしたが、それなりに楽しめました。


さぁ今日からは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をやるぞー。

秩序はデザインによってではなく進化によって生まれる:『進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来』

生物のみならず、科学・道徳・経済・宗教など人が生み出したありとあらゆるものが、「進化」という変化と淘汰を繰り返す試行錯誤のプロセスを経て今に至る。このボトムアップ的な力を認め、受け入れるべきである。

歴史が一人の偉人の力によって動かされ、世紀の発明が一人の天才の英知によってなされた、というのは誇張である。人々は往々にして個人の力や意志、単純な因果関係を過大評価する。実際には生まれた時代と場所、それにそれまでの文化・科学の積み重ねによる影響が大きく、例えばたとえアルバート・アインシュタインが生まれなくとも、相対性理論は概ね同じ時代に生まれていただろう。個人の力やリーダーシップが重要でないというわけではないが、物事は段階的なステップを踏んで進歩するものであり、特定の個人を必要以上に崇めるべきではない。

そしてそのような進化の塊である複雑な社会を、人為的なトップダウンの政策・規制によって社会を導こうとする試みが成功するのは稀である。世界大戦、世界恐慌世界金融危機などの不幸は、意図的な計画を実行しようとする少数の人の意思決定の結果もたらされた。

世界は、上からの誰かによるデザインがなくとも、下からの自然発生的な変化の力によって、漸進的に、否応無しに良くなっていくだろう。

進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来

進化は万能である:人類・テクノロジー・宇宙の未来


著者のエネルギーを感じる、刺激的で面白い本でした。

思い出しライトは作れるか:『脳はなぜ都合よく記憶するのか』

ありもしなかったことの記憶が創作され確信される仕組み、被験者に偽の記憶を植え付ける方法などを提示しながら、記憶を事実として信用すべきでない理由を明らかにしている。

その根底にあるのは「記憶は(記憶されたその瞬間から)完全ではない」という単純な事実と、「人は記憶力を含めた自分の能力を過信する」という人の一般的な傾向である。目撃証言がいかに信頼がおけないかについては、社会的な影響・圧力の大きさにも触れられている。

人間の思考は、抽象化とネットワーク構造による関連付けによって仮想的なものを含めた多くの物事に対処できるようになった。この抽象化とネットワーク構造による関連付けは、「事実ではない類似の事象」の記憶とその想起をトリガーし、偽の記憶を確信する一因にもなる。

記憶が、特に自分の記憶が間違っている可能性がある、ということを常に念頭に置き、謙虚に事実を突き止めようとする姿勢が重要である。

脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議

脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議


ちなみに「思い出しライト」というのは『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』に登場する、意図的に記憶を奪われた主人公たちの記憶の一部を思い出させる懐中電灯型のライト。

本書では、光を当てることでニューロンの活性・不活性を操作する技術(光遺伝子学)を利用した記憶の操作の研究が紹介されていた。現在行われている実験は、単純な刺激と感情の結びつけ程度であり、思い出しライトの機能である封じ込められた任意のエピソード記憶の想起からは程遠いが、この技術が飛躍的に進歩すれば、"理論上は"可能になるのかもしれない。

失敗なくして進歩なし:『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

失敗から学ぶ組織(業界)の主要な例として航空業界が挙げられている。

飛行機にはブラックボックスが組み込まれており、万が一事故が起きた際には徹底的に原因の調査が行われるが、パイロット個人に対する責任の追求は基本的に行われない(例外はあり、そういった場合はパイロットの人生の崩壊といった悲劇的な結果を生むこともある)。また、調査結果は該当機の企業だけでなく業界全体で共有される。

また、ミスの報告も一定期間内の自己申告であれば処罰を行わない、個人を特定しない形で飛行機からエラーレポートを収集する仕組みがあるなど、失敗から学ぶ文化が根付いている。

それを裏付ける一例として、「ハドソン川の奇跡」で有名になったサレンバーガー機長の言葉が印象深い。

我々が身に付けたすべての航空知識、すべてのルール、すべての操作技術は、どこかで誰かが命を落としたために学ぶことができたものばかりです。(中略)大きな犠牲を払って、文字通り血の代償として学んだ教訓を、我々は組織全体の知識として、絶やすことなく次の世代に伝えていかなければなりません。これらの教訓を忘れて一から学び直すのは、人道的に許されることではないのです。

一方で失敗から学ばない組織として挙げられているのは医療、司法などである。

医療ミスを「複雑な事態が起こった」として片付ける病院と医者、DNA鑑定の結果に無理矢理な解釈を持ち出してでも冤罪の可能性を認めない検察、彼らの共通点は自分たちの専門性に高いプライドを持っていること、そして失敗が自分の無能さとして受け取られることを非常に恐れていること。

こちらも「一から学びなおすことが人道的に許されることではない」仕事であるため航空業界との違いが際立つが、これはそこにいる個人の資質ではなく業界の文化の差が大きい。多くの場合、彼らは真面目に仕事に取り組んでいるからこそ、ミスを許容しない文化に強く適応してしまっている。

また、自分たちの活動が役に立っているということを確信し、活動の効果を検証しない善意の NPO、ある分野への適性を生まれつきの才能と決めつける教育にも問題はある。

あらゆる進歩には失敗・間違いがつきものであることを受け入れなければならない。科学は誤りのあるかもしれない仮説を主張することを認め、検証によって真偽を確かめることで発展を遂げてきた。また、かつて正しいとされてきた論説に異議を申し立てることもできる。その根底にあるのは「自分は万能ではない、全てを知っているわけではない」という姿勢である。

社会的政策やビジネスの分野では未だこうした姿勢が足りていない。小さな改善を試行錯誤して繰り返す、事前検死を採り入れるなど、「失敗ありき」で物事に取り組むべきだ。