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思い出しライトは作れるか:『脳はなぜ都合よく記憶するのか』

ありもしなかったことの記憶が創作され確信される仕組み、被験者に偽の記憶を植え付ける方法などを提示しながら、記憶を事実として信用すべきでない理由を明らかにしている。

その根底にあるのは「記憶は(記憶されたその瞬間から)完全ではない」という単純な事実と、「人は記憶力を含めた自分の能力を過信する」という人の一般的な傾向である。目撃証言がいかに信頼がおけないかについては、社会的な影響・圧力の大きさにも触れられている。

人間の思考は、抽象化とネットワーク構造による関連付けによって仮想的なものを含めた多くの物事に対処できるようになった。この抽象化とネットワーク構造による関連付けは、「事実ではない類似の事象」の記憶とその想起をトリガーし、偽の記憶を確信する一因にもなる。

記憶が、特に自分の記憶が間違っている可能性がある、ということを常に念頭に置き、謙虚に事実を突き止めようとする姿勢が重要である。

脳はなぜ都合よく記憶するのか 記憶科学が教える脳と人間の不思議

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ちなみに「思い出しライト」というのは『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期』に登場する、意図的に記憶を奪われた主人公たちの記憶の一部を思い出させる懐中電灯型のライト。

本書では、光を当てることでニューロンの活性・不活性を操作する技術(光遺伝子学)を利用した記憶の操作の研究が紹介されていた。現在行われている実験は、単純な刺激と感情の結びつけ程度であり、思い出しライトの機能である封じ込められた任意のエピソード記憶の想起からは程遠いが、この技術が飛躍的に進歩すれば、"理論上は"可能になるのかもしれない。