この世に悪があるとすれば、それは無知だ:『無限の始まり』
人間が持つ、知識を創り出す「創造力」の可能性を限りなく前向きに捉えた著者の情熱を感じる超大作(600ページ以上)でした。
- 作者: デイヴィッド・ドイッチュ,熊谷玲美,田沢恭子,松井信彦
- 出版社/メーカー: インターシフト
- 発売日: 2013/10/29
- メディア: 単行本
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創造力
人間は「説明(知識)」を創り出す「創造力」があるという点で特殊である。他の生物の、遺伝子による情報更新の速度は極めて遅く(一世代の一生を必要とする)かつ局所的(その生物が生きている場所でしか通用しない)のに対して、人間が創り出す「説明(知識)」は批判にさらされることで絶え間なく進化(修正)を続けて無限に広がるリーチ(適用範囲)を持ちうる。一方で、世の中には問題が無限に存在し、また、完全な知識というものは存在しない。だからこそ、人間は限りない進歩を続けるだろう。
…というのが、極めて大雑把にまとめた、全体を通した本書のテーマです。
人間を神格化しているわけではありませんが、それでも特別視はしており、例えば以下に挙げる一節のように、人間の知識の力を讃えています。
現在では、地球に備わっている「人間のための生命維持システム」の能力のほとんどは、人間のためにあるのではなく、人間によってもたらされている。そこで用いられているのは、われわれがもつ、新しい知識を生み出す能力だ。(…)つまり、生物圏には人間の生命を維持する能力がないのである。歴史のはじめから、地球を何とか人間の住める場所にしたものは、人間の知識にほかならない。
批判の精神
既存の説明に対する批判によって、より良い説明が生まれるという「批判」の精神を非常に重要視している事もあってか、著者の主張は強く、いろいろな説を全く遠慮無く批判しながら論説が進められていきます。論争を恐れないという点でもかなり特徴的な本でしょう。
難しい...
ここまで書いておいてなんですが、正直、具体的な内容の方は半分も理解できていないと思います。。。扱われるトピックは量子論から政治学など多岐にわたり(下記「目次」参照)、わかったような気がするものもあれば、全くわかる気がしないものもありました。
一般的なポピュラーサイエンス本を想像して軽い気持ちで手にとると、内容の濃さにガツンとやられてしまいかねませんが、非常に読み応えのある本ですので、われこそは、という方はぜひ手にとってみてください。
目次
- 説明のリーチ
- 実在に近づく
- われわれは口火だ
- 進化と創造
- 抽象概念とは何か
- 普遍性への飛躍
- 人工創造力
- 無限を望む窓
- 楽観主義(悲観主義の終焉)
- ソクラテスの見た夢
- 多宇宙
- 悪い哲学、悪い科学
- 選択と意思決定
- 花はなぜ美しいのか
- 文化の進化
- 創造力の進化
- 持続不可能(「見せかけの持続可能性」の拒否)
- 始まり