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本やゲームの感想など

著名思想家4人によるディベートの結果は:『人類は絶滅を逃れられるのか』

「人類の未来は明るいか」というテーマについて、肯定派にスティーブン・ピンカー(「暴力の人類史」などの著者)とマット・リドレー(「繁栄」などの著者)、否定派にマルコム・グラッドウェル(「天才!」などの著者)とアラン・ド・ボトン(「旅する哲学」などの著者)を迎えて行ったディベートを本の形でまとめたもの。

人類は絶滅を逃れられるのか―――知の最前線が解き明かす「明日の世界」

人類は絶滅を逃れられるのか―――知の最前線が解き明かす「明日の世界」

全体的な論調としては、肯定派の2人は「多くのデータが人類が進歩してきたことを示しており、それを可能にしてきた要因は今も存在するため進歩が止まると考える理由はない。故に人類の未来は明るいと考えられる」と主張。

それに対してマルコム・グラッドウェルは「人類が進歩してきたこと、多くの改善があったことは認めるが、それは同時に個人や小規模な組織が持ち得る力も増大させ、リスクの質が変容した。核戦争を筆頭に、未来には今までにはありえなかった規模の損害・衰退が発生する恐れがある。故に未来が明るいとは言えない」、アラン・ド・ボトンは「どんなに科学が発展し社会が豊かになっても人間の本質的・内面的な愚かさは変えられず、誰もが幸福で完璧な世界は実現できない。人類の未来が明るいと考えるのは傲慢であり、謙虚な姿勢を持つべきだ」と主張。

肯定派2人とマルコム・グラッドウェルの話は基本的に理解できたのですが、アラン・ド・ボトン氏の主張はイマイチよく掴めませんでした。本文中でも肯定派から突っ込まれていましたが「完璧」という言葉を持ち出したり、「人類の未来は暗いと考えておくことは未来に備える上で有用な心構えだからそう思っておくべきだ」という形の主張があったりと、論点のずれを感じました。

短くさらっと読める反面、個々の主張は短く、対戦形式のディベートという性質上どうしても粗探しっぽくなっている箇所もあります。

肯定派の2人については、それぞれの著書がこの本での主張とほぼ対応しているので、そちらを読む方がオススメです。

プレゼン Tips 集:『新エバンジェリスト養成講座』

サブタイトル(Tips for Presentation)を見ずに、マイクロソフトの人が書いた、とだけ知っていて「ユーザーに自社製品のエバンジェリストになってもらうためにどういう製品・サービスを作るかの話かな」と思っていたら全然違いました(笑)。

せっかくなので読んだところ、口語体で読みやすく(若干胡散臭さが出てしまってる気がしますが)、なるほど、と思った内容もありました。

プレゼンをする機会ってそういえば自分はこのところ全くないのですが、いつかその時が来たら思い出してみたいところです。

  • プレゼンの目標は相手を動かすこと。相手に情報が伝わるだけじゃだめ。
  • 相手目線の体験を伝える。「容量 550ml の化粧品」ではなく「N回使える量の化粧品」など。
  • 資料は視点誘導しやすく。プレゼン中の視点誘導は言葉で。
  • 「これがあるとこんなに良い」というようなサクセスストーリーよりも「これがないとこんなに困る」というホラーストーリーの方が必要性を訴えやすい。
  • 時間について言及するときは絶対時間(201X年)と相対時間(X年前)を織り混ぜるとイメージしやすい。

新エバンジェリスト養成講座

新エバンジェリスト養成講座

全ては喜びのために:『ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント』

方法論としてはいわゆる「アジャイル」に属するもので、今では(実際に導入している企業の多さはさておき)それ自体は特に目新しいものではありませんが、その目的をただ「成果を出す」、「生産性を上げる」で止めずに「顧客や従業員の幸せのため」と位置づけていることが面白い着眼点だと思いました。

誰もが意義のある仕事をしたいと思っている。だから成果を出すことは幸せに繋がる。」という図式のもと、そのためにアジャイル的な方法を用いて生産性を最大化する、ということです。改めて明文化されるとなるほど確かに、自分が成果に貢献できているという自信ほどモチベーションが上がることはなかなかありません。

基本的にはマネジメント層の人が整える仕組みの話なのであまり自分には関係がないのですが、成果を出すことは幸せにつながる、という意識を持って物事に取り組むことはどんな立場にいる人にも有用な心構えなのではと思いました。

ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント

ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント

WORLD ORDER:『国際秩序』

柔軟な多国間関係による自律的なパワーバランス調整と、他国の権力の正当性との折り合いの付け方(例えばイスラム教的な教義では最終的にはイスラムによる世界統一が目標になるため他国の存在そのものが正当ではないとされるが、そのような考え方と現実的にどう向き合うか)などが重要、ということはなんとなくわかったのですが、いかんせん地理・歴史に関する基礎的な知識の不足を感じ表面を滑るような読書になってしまったので、170ページ(全体の1/3強)ほど進んだところで読むのを断念しました。

秩序の構築と崩壊について歴史的背景を併せて地域ごとに説明されていて「きちんと理解したら面白そうだろうな」とは感じたのですが、これを消化するにはかなり時間がかかりそうなので、また余裕があるときに再チャレンジしたいです。

(あと、これは内容以前の問題ではあるのですが、難しい日本語(涵養、論難、奢侈、係累など)がちらほらと出現し、それもまた難点でした。原文もさぞ難しい単語が使用されているのでしょう。読者に求められる知識レベルの高さが伺えます。…自分のレベルが低いだけかもしれませんが。)

国際秩序

国際秩序

「客観的」という幻想:『ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方』

政府や企業が「(ビッグ)データによって客観的な事実が得られた」と言うとき、それを鵜呑みにしてはならない。同様の理由で「何とかランキング」にも注意すべきである。

データの収集、解釈、提示、どのステップにも誰かの意図が混入する。ここでの「客観的」という言葉はせいぜい「誰がやっても同じ結果がでるように算出方法が決まっている」程度の意味しかない。その算出方法を決めるのも、算出方法を適用するデータの集め方を決めるのも、誰かなのである。

また、集計結果が何らかの事実を示唆しているように見えても、データ自体が示すのは相関関係であり因果関係ではない。そして往々にして物事の本質を理解するのに重要なのは因果関係である。

データが増えれば増えるほど、そのデータを利用する方法は増える。そしてその利用方法は正しく有意義とは限らない。悪意を持ってすれば、嘘をつくことなしに、自分の主張を裏付けるようにデータを集め、解釈することだってできる。

統計を疑う感覚、示されたデータの裏を読む感覚を磨いておくことが重要である。

ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方

ナンバーセンス ビッグデータの嘘を見抜く「統計リテラシー」の身につけ方


例として挙げられていたグルーポンって懐かしいなぁ、と思いました。アメリカベースの例なので少しピンとこないものもありましたが、全体として読みやすく面白かったです。