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本やゲームの感想など

死にゆく中で生の意味と希望を探す:『When Breath Becomes Air』

多くのサイトで 2016年のベスト本の1つとして紹介されていた『When Breath Becomes Air』を読了しました。

When Breath Becomes Air

When Breath Becomes Air

脳神経外科医・研究者になるために超人的な努力を続け、ついにその夢が叶うところまできた、というところで末期癌が見つかりその夢を絶たれてしまった方の自伝です。

新年早々生死について考えるというのは少し憂鬱にもなるかもしれませんが、新たな目標と希望を決める時期だからこそ、その避けられない集大成となる最期を考える機会となって良いのではと思います。テーマは重いですが、絶望が語られるだけではありません。文章も読みやすい良書でした。

人生の最期と死を扱った本としては『Being Mortal: Medicine and What Matters in the End』も素晴らしい良書ですが、あちらは主に外から死を見つめる視点であるのに対し、こちらの本は死にゆく本人が書かれたものであるといった点でまた違った重みがありました。


Part 1. では、脳神経外科医を目指すまでの経緯と、その道に進んでからの膨大な勉強、厳しい訓練の様子が書かれています。

文学に惚れ込みそこから人生の意味を探した日々のこと、一方で人もまた脳や体といった物理的な構造と法則に支配されており、人を真に理解するには医者になるしかないのではという考えにいたり医師を志すことにしたこと、研修医として多忙を極める中で人の死に触れ続けることで、生死に関する道徳観が育まれるよりもむしろ揺らいでしまったのではないかと悩んだこと。

それでも不断の努力と内省を重ね、医師として患者の生死のみならず「意味のある生」に対する責任と向き合うことを学び、技術を研鑽し、実績を重ね、またプライベートでも結婚し、子供をというところで、"Perfect Health I Begin" とタイトルの付いた Part 1. は終わります。

Part 2. "Cease Not till Death" からは、癌が見つかり、今まで描いてきた将来の展望が崩れる中で、自分の人生の意味を見つめ続ける日々の様子が書かれています。長生きできる確率が低いことがわかっていながらも希望を探して生きようとすること。あと何年生きられるのか、どのような回復が見込めるかがわからないなかで、医師としての復帰を目指すのか家族と過ごすことを優先するのか、何を大事にし、何をするかを決めなくてはいけないこと。成長を見守れないことを覚悟しながら、子供を残すことに決めたこと。

本人による手記は Part 2. の最後に、娘にむけたメッセージで終わり、エピローグでは彼の妻が、彼の最期の様子を書かれています。自身で最期まで書き上げられなかったことに対する無念さはもちろんあると思いますが、それでも娘の存在に希望を抱いて最期を迎えられたことを願います。


著者の家族、特に著者の最期の希望であった娘さんの幸福をお祈りいたします。

Being Mortal: Medicine and What Matters in the End

Being Mortal: Medicine and What Matters in the End