書評:『火星の人類学者』
『知の逆転 (NHK出版新書 395)』を読んで気になったので、オリヴァー・サックス著の『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者 (ハヤカワ文庫NF)』を読んでみました。
『火星の人類学者』は、表題となった、自身を「火星の人類学者」と表する動物学者を始めとした、生まれつき、もしくは病気によって脳に障害のある患者についてオリヴァー・サックス博士が纏めたエッセイ集です。
火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者 (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: オリヴァーサックス,Oliver Sacks,吉田利子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/04
- メディア: 文庫
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人とは、普通とは、自分とは
特殊な患者の例を集めたエッセイ集であり、物語としてとても興味深いのは勿論なのですが、それらを通して、もっと一般化した「人とは」的なことを自分に結びつけて考えさせられる本でした。
病気や事故によって自我を失ったら、それは自分なのか、老衰による脳機能の低下はどうなのか、などなど。人間の脳の力に畏怖の念を抱くでもあり、その脆さに恐ろしさを覚えるでもあり、脳を大事にしたいというか、今自分が世界を「普通」に感じられることを感謝したくなるような気にもなりました。
「図書館には不死が存在する」
これは脳の障害の有無とはあまり関係のない言葉ではありますが、特に印象に残ったものなので紹介しておきます。
自身を「火星の人類学者」と称し、他人の感情を読み取ることが不得手な動物学者が、意味のあることがしたい、世界に貢献したい、と語る際に使った言葉の一部です。
図書館には不死が存在すると聞きました。(…)自分とともに、わたしの考えも消えてしまうとは思いたくない。なにかを成し遂げたい、なにかを残したいのです。貢献をしたい。自分の人生に意味があったと納得したい。
今ではインターネットの方が図書館よりも「不死」や「永遠」に近いと思われますが、図書館という実世界性が、なんとなくこの言葉の切実さとマッチしているような気がします。