政府 × 行動経済学:『Inside the Nudge Unit: How small changes can make a big difference』
Inside the Nudge Unit: How small changes can make a big difference
- 作者: David Halpern
- 出版社/メーカー: Virgin Digital
- 発売日: 2015/08/27
- メディア: Kindle版
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ポイント
人に何か行動を促したい時は以下の EAST 原則を意識する。
項目 | 要約 |
---|---|
Easy | 簡単にする。人は簡単で面倒でないことならする可能性が高い。行わなければならないことは出来る限り単純化し、障害を減らす。選択ならデフォルトが一番良いものにする。 |
Attract | 注意をひきつけ魅力的にする。受けての名前を出すなどのパーソナライズや、重要なポイント・受け手にとってのメリットの強調する。専門家の名前を出すなどして信頼できるものにする。 |
Social | 社交性を利用する。人は他の人の行動を強く参考にする。他の人が既にやっているということを知らせる。他人の目を意識させる。 |
Timely | 適切なタイミングで知らせる。(悪い)習慣が固まる前に介入する。 |
感想
イギリスの Behavior Insight Team が政府としてどのように行動経済学を活用して、税金の回収率を上げる、再就職率を上げる、より効果的な教育方法を探す、といった活動を行ったかということを、その当事者が書いた本。
具体的な事例が多く、また「正しく公正であること」が期待される政府としてそのような活動を行うことの難しさなども書かれており、理論や研究室内では終わらない実世界の話を知ることができました。
他にもヘルメットの着用を義務化したら自転車の盗難が減った*1ことや、ガスの種類が変わったことで自殺数が減った*2など面白い話もあり、コストパフォーマンスは良い本だったと思います。
システマチックに改善を続けるために:『Principles』
Principles: Life and Work (English Edition)
- 作者: Ray Dalio
- 出版社/メーカー: Simon & Schuster
- 発売日: 2017/09/19
- メディア: Kindle版
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ポイント
- 判断基準・ルールを明確にし、言葉やコンピューターアルゴリズムの形で書き出す。
- 誰もがその基準・ルールを活用し、妥当性を評価し、改善できる。
- アルゴリズム化できれば、自分の頭の中には収まらない量のデータを高速に扱える。
- 問題の真の原因を追求すること。
- 「私たち」のような曖昧な言葉を使わず「誰の」という個人名まで明らかにする。
- 問題に至った動作(もしくは動作の不足)で止まらず、それがなぜ起きたかまでを突き詰める。
- 他人に起こったこと、自分が生まれる前に起こったことを含めて、過去の事例から学び、準備すること。
- ほとんど全てのことは「よくあること」の1つで、論理的な因果関係を理由に繰り返し起こる。
- 目の前のことは大きくみえる。俯瞰的に捉えること。
- 苦痛や問題は改善の可能性・機会である。
- 痛み + 反省 = 前進。
- 問題を特定し、容認しないことは最も重要なことの1つである。
- 決定がもたらす一次的な影響に重点をおきすぎず、2手、3手先への影響まで考える。
感想
特に参考にしたいと思ったポイントは「判断基準を明文化する」ことと「決定がもたらす先の影響までを考えること」。
「判断基準を明文化する」については、例えば「暇な時に何をするか」とか「夕食は何にするか」のような日常の些細なことでも、頭が働いている時に作ったルールに従う、ということ自体に価値はありそうです。ルールに沿うだけで良ければ意志力の消費も少なく、長期的に見て良い行動を選択しやすくなるのではないかと。
「先の影響まで考える」については、あらゆる決断でついて回る話なので。間食をする → 直近の満足感・快楽は得られる → 後で後悔する・健康にマイナスの影響がある(と心配してしまう)、夜更かしして漫画を読む → 楽しい → 翌日辛い、などのような小さなことから、仕事を最低限の形でこなす → タスクを完了したという満足感・開放感が得られる → 後で不具合や技術的負債に苦しむ、といった仕事のことまで。先のことを考えるべきというのは当たり前と言えば当たり前なのですが、この意識を持ちつつ判断基準を事前に明確にしておくことで、普段から後で後悔しない決断を繰り返せれば良いなぁと思いました。
著者については TED での登壇なども含めて YouTube にいくつか講演、インタビューの様子が上がっており、本人のチャンネルもあるので、たまに見返すと復習になりそうです。
自分に問いかける:『「良い質問」をする技術』
- 作者: 粟津恭一郎
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/10/03
- メディア: Kindle版
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ポイント
- 良い質問とは、聞かれた人が答えたくなり、かつ気づきを与える質問
- 軽い質問:答えたい・答えやすいけど気づきがない(過去の成功体験についてなど)
- 重い質問:気づきがあるけど答えたくない・答えにくい(過去の過ち・後悔についてなど)
- 組織の中でよく使われている質問は、その集団の「本質」を表す
- 「売り上げはどうか?」とトップが問い続けると売り上げを重視する企業風土が育まれる
- 「伝わったメッセージ」が「伝えたメッセージ」
- Vision(手に入れたいもの), Value(価値観), Vocabulrary(よく使う言葉) に注目し、疑問詞と組み合わせて質問を作る
感想
コンサルタント・コーチング関連の人がクライアントに対して行うにあっての「良い質問」についての本でした。 もっと軽い、ビジネスに役立つテクニック的なものを想像していたのですが、これはこれで面白かったです。
自分に良い質問を問い続けることで意識を整える、というのは継続できれば良さそうに思えるので、少し意識してみようと思います。
行動経済学まんが:『ヘンテコミクス』
- 作者: 佐藤雅彦,菅俊一,高橋秀明
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2017/11/16
- メディア: 単行本
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ポイント
- 人間とは、かくもヘンテコな生きものなり。
感想
どこかで見たことがあるような画風のマンガで、人間の「考えてみると少し変わった振る舞い」をまとめた面白い本。
一部の例については「うーん、そうかな?」と首を傾げるものがあったものの、基本的にはマンガと行動経済学的な用語が上手く結びついていて、「そうだよね」と納得できるものでした。
行動経済学に興味を持った人への導入としてオススメできることはもちろん、『予想通りに不合理』や『ファスト&スロー』を読んだことがある人の気軽な復習にも良さそうです(自分は後者)。
プラシーボだっていいじゃない:『「病は気から」を科学する』
- 作者: ジョー・マーチャント
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/04/13
- メディア: Kindle版
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ポイント
- プラシーボであっても治療効果・鎮痛効果があるのであればそれは有用で、利用価値がある。
- プラシーボでは、実際に脳内からエンドルフィン(鎮痛作用のある化学物質)が産生されるなど、実体的な体への効用がある。つまり、プラシーボは完全に気のせいというわけではなく、体の何らかのメカニズムを稼働させることによって効果を発揮している。
- 悪性の効果を示すプラシーボ(ノセボ効果)も同じように実際に体に何かが起きていると言える。一部のプラシーボはノセボによる「必要以上の痛み」を緩和することで作用している可能性がある。
- 患者に「これはプラシーボ薬です」と伝えて化学的な効果のない薬を投与してもプラシーボの効果を維持することができるため、「患者を騙している」という倫理に対する批判をかわす手段はある。
- どのプラシーボが何に作用するかは、文化や個人によって異なる。
感想
「代替医療にはプラシーボ以上の効果はない」*1という批判に対して「プラシーボであろうと効果があるならいいじゃない?」という方向性で、プラシーボや催眠術、瞑想などによる「心」への働きかけが「体」にどう作用するかについての研究をまとめた面白い本。
本を読む前は「ホメオパシー?バカじゃないの?」という考えだったものの、読み終わってみると「バカにできたものじゃないな(まぁ自分では手は出さないけど...)」と考えが変わりました。その人が望んだ効果が得られるのであれば、手段について他人がとやかく言うことではありませんね。
プラシーボが「なぜ・どのようにして効果があるのか」については、まだそこまで科学的なメカニズムの解明は進んでいないようであるものの、「効果があるようだ」という研究(実験)結果は想像していた以上に出ているようでした。
一般に誤解や誇張がなく受け入れられて、ケアや治療の一貫に組み込まれていくためのハードルは高そうですが、上手く活用できれば社会的なメリットは大きそうなので、研究が進むと良いなと思います。
*1:ちなみに「代替医療の効果(はない)」という話については『代替医療解剖(新潮文庫)』が面白かったです。