not yet

本やゲームの感想など

母の愛とアパルトヘイト:『Born A Crime: Stories from a South African Childhood』

南アフリカ出身のコメディアン、 Trevor Noah という方の回顧録。

この方を知っていた訳ではないのですが、ビル・ゲイツ氏の今年の夏のオススメ本の一冊に紹介されていて興味を持ったので読んでみました(gatesnote | 5 Good Summer Reads)。

知らない人の伝記やエッセイというのは結局興味が持てなかった、ということも多々あるのですが、この本はとても面白かったです。読み物としては2017年上半期の一押し。

Born A Crime: Stories from a South African Childhood (English Edition)

Born A Crime: Stories from a South African Childhood (English Edition)

アパルトヘイトという人種差別政策の下で、その政策の不合理さの証明とも言える黒人の母、白人の父を持って生まれた「colored」としての著者の子供の頃からの生活の様子がユーモアと鋭い洞察を持って書かれています。

全体として特に印象的なのは、そもそもアパルトヘイト下で、混血の子どもを生み、育てようと決意しそれを実行した著者の母親の芯の強さですね。

何時間もかけて教会に通うなど信心深いところがあり、その辺りの行動の合理性については信心深いわけではない著者との会話が面白おかしかったりするのですが、黒人の女性、というアパルトヘイト下では多くのハンディキャップを背負う立場でありながら、仕事を手に入れ、子どもを守り育て抜いた、その意志と行動力には頭が下がります。本当にすごいです。

一方、著者との接触がしばらく断てれてしまっていた実父との再会のエピソードにも胸に来るものがありました。

アパルトヘイト社会を、その渦中で育った方の視点から書かれている、という点で勉強にもなったと思います。英語も平易で読みやすく、いろいろな面でオススメです。

小説感想:『ダンガンロンパ霧切 5』

『密室十二宮』完結編(ようやく)。

トリックは相変わらず、理論上は確かにできるんだろうけど、的なタイプ。リブラ女学院のトリックはダンガンロンパ本編経験者なら種明かし前になんとなくの予想はついたのでは。

前巻までに仲間に引き入れた探偵たち扱いは…ちょっと残念な方向の一幕はあったものの、わからなくはない、ですかね。適度に退場して頂き、次は次、という感じでしょうか。この巻含めて霧切さんの活躍の場がほとんどなかったので、今後霧切さんメインで進めるには良かったのかもしれません。

例によって強烈なキャラクターとの対決を予想させる感じの引きなので、次巻も楽しみではあります。

しかしこのシリーズはいつ完結するのでしょう?まだラスボス戦すら始まりそうになく、この刊行ペースではあと5年くらいかかるのでは…。

ダンガンロンパ霧切 5 (星海社FICTIONS)

ダンガンロンパ霧切 5 (星海社FICTIONS)

ゲーム感想:『追放選挙』

最初の『選挙』が終わったところで「これはプレイするモチベーション保てないなー」と思って止めました。もう少し時間的に余裕がある時期であればもう少しプレイしてみたかもしれませんが…。

追放選挙

追放選挙

Amazon で「参考になった」が多く付いているレビューとだいたい同意見で、

  • 主人公の「他のメンバー全員を積極的に『選挙』で追い落として殺してやる」という動機についていけない。
    • 他のメンバーは殺してやると思えるほどの悪人に見えず、主人公が復讐心を抱くようになった状況を考えてもそれで積極的に殺しにいく主人公の方が異常。自分が他のメンバーと同じ状況に置かれていたら、自分だってそうするし。。。
  • 『選挙』システムが全く選挙っぽくなく、ゲームとしても面白くない。
    • 最初の『選挙』はなんだかルールすらよくわからないまま終了。
    • 『選挙』は候補・投票者の両方が匿名の状態で行われ、負けて追放されたメンバーの記憶は主人公以外のメンバーからすぐに消えるので、人間ドラマ的なものもない。
      • 匿名性故に『選挙』前の期間に主人公が情報収集のために他のメンバーと接触する、という行為の意味もない。

「追放者を選挙で決める」というコンセプト自体は上手く行けばゲームにガッチリはまりそうに思いますが…本作に関してはストーリー+メインキャラクターとシステム両面でコケているので残念でした。

よく考えてみればこのコンセプトでプレイヤーに納得感を持ってもらうのはかなり難しい気もしますが、またいつか再チャレンジして欲しいと思います。

微生物との共存:『10% Human: How Your Body's Microbes Hold the Key to Health and Happiness』

微生物、とくに人の腸に棲みついている微生物が人の健康にいかに与えるかについて、肥満や花粉症、アレルギーといった身近なものから自閉症などの精神的な病気までをも絡めて、多くの研究を引用している紹介した本。

あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』として訳書も発売中ですが、原著が Kindle 版が 200円くらいと、妙に安かったので購入しました。

10% Human: How Your Body's Microbes Hold the Key to Health and Happiness

10% Human: How Your Body's Microbes Hold the Key to Health and Happiness

最初の章で、著者の言う多くの「21世紀病」(肥満、精神病、アレルギーなど、20世紀後半くらいから急激に増えはじめた病気・症状)と微生物を関連付けようとしているような記述をみたときは大分風呂敷を広げているなーと半信半疑でしたが、終わってみれば全体的に納得感のある説明がされていたと思います。

例えば肥満については、太りやすい人は過去に特定のウイルスに感染した割合が高い(それによって体内の微生物系がある傾向性をもって崩れている)であったり、無菌状態で育てたマウスを肥満傾向を持つマウスと痩せ型のマウスそれぞれと同居させたところ、腸の微生物環境が変わり、同じだけの餌を与えても肥満傾向を持つマウスと同居させたマウスは太りやすくなった、といった研究成果が紹介されていました。

まだ研究は始まったばかりとのことで、具体的な化学・生物学レベルでどうやって微生物が人の健康に影響を与えているのか十分に解明されていないものもありましたが、ある程度の因果関係については認められそうな気がします。

体内の微生物を大切にする上で大切な方法は

  • 野菜や果物など、食物繊維豊富な食事を取ること。
  • 安易に抗生物質を摂取しないこと。
  • 出産時にはなるべく帝王切開を避けること。なるべく母乳で育てること。

など。食事に気を使う理由が1つ増えた、という感じです。

意味ってなんだ:『哲学入門』

「意味」や「機能」、「目的」とは何だろう?「石ころ」みたいに物理的に存在するものとは何か違うよね?といった感じの「ありそうでなさそうでやっぱりあるもの」について唯物論(物理主義)的なスタンスでそれらの存在と起源を説明することを目指した本。

2回通しで読んでようやく「なんとなく言いたいことはわかってきた気がする」(しかし言っていることがわかったわけではない)という感じになれました。うーん、難しいですね。特に後半の「自由」や「道徳」と「決定論」の両立の辺りは、直感との乖離が大きく頭が納得することを拒んでいるようです。

しかしこういう普段考えもしないようなことを考えてみる、というのはなかなか面白く、直感と反しているというのはその分刺激的です。

文体もフランクで読みやすく、わからなくてストレスが溜まるということもありませんでした。

哲学入門 (ちくま新書)

哲学入門 (ちくま新書)

同じ著者の『恐怖の哲学』もおすすめです。こちらの方がもう少し実践よりというか実体験よりで具体的なので、読みやすいかもしれません。


以下、内容についてもメモ。かなり端折っています。

心をもつ・意味を理解するには

心をもつ、意味を理解する、というのは何ができるか、という機能・能力の問題ではない。その機能が何のためにあるのか、つまり機能の目的の存在様式の問題である。

人間によって設計された人間のためのロボット(お掃除ロボットなど)がどんなに優れた状況判断能力(ゴミを見つけて拾う、バッテリーが切れそうになったら充電台に向かう)を持つようになっても、その機能があくまで設計者の問題(部屋を綺麗にしたい)を解くために用いられている限り(つまり人間の道具である限り)「心も持っている」とはいえないのではないか。

ロボットが自分自身の欲求・問題を持ち、その充足・解決のために環境への適応を試みるようになった時、はじめてそれは「心を持つ」といえる。

目的論的意味論

「本来の機能」という概念に注目して表象を分析し、意味を与える。ここでの「本来の機能」は「起源論的定義」と呼ばれる、進化の歴史に訴えた定義に基づく。

これは「SがもつアイテムAがBという本来の機能を持つ」というための必要十分条件を「SにAが存在しているのは、Sの先祖においてAがBという効果を果たしたことが、生存上の有利さを先祖たちにもたらしてきたことの結果である」とすることである。

この定義は、何らかの問題があって本来の機能が果たせなくなっているものでも条件を満たすことができ、また、本来の機能と副次的な機能を区別することができる。

また、この「本来の機能」の考え方は進化以外の条件学習等にも適用できる。

スワンプマンの思考実験

目的論的意味論に対する判例として扱われる。

突発的にある人間と全く同じ物理状態を持つコピーが生み出された場合、それは進化の歴史を持っていないためにその「表象」は意味を持たないことになる。しかし唯物論的には同じ物理状態であるのに一方(オリジナル)は意味を持ち、コピーは意味を持たない、というのは受け入れがたい。

概念分析と理論的定義

概念分析とは、われわれが普段使っている概念の内容を分析して、できればその概念の必要十分条件を定式化する作業のこと。概念分析を主な手法として営まれている哲学の流派は分析哲学と呼ばれている。

概念分析には、誰の概念が分析されているのか、必要十分条件を満たしているかなどを判断をするのは誰か(哲学者で良いのか)という問題がある。分析哲学に対する批判的な潮流として実験哲学というものがあり、こちらは「われわれの概念」を分析するものとして、大衆を対象にした心理実験などを行っている。

一方、理論的定義では、概念ではなくことがらそのものをターゲットとし、理論の目的のために概念を新しくつくる、改訂することを目的としている。理論的定義の評価基準は、理論の目的にどれだけ適っているかであり、概念分析の評価基準となるわれわれの日常的な概念にどれだけ合致しているか、ではない。

決定論と自由意志・道徳

科学の発展によって、人間(脳)もまた入力に反応して出力を行うメカニズムである、ということが段々と明らかになりつつある。これは「われわれの行為が、環境からの入力と、内部のメカニズムで決まってしまうのであれば、自由意志の余地がどこにあるのか。自由意志の余地がないのであれば、道徳という概念も意味がなくなるのではないか(だってその人の意志の結果ではないのだから)」という方向に帰結する可能性がある。

ここでの決定論はラプラスの悪魔のような、世界全体に対する全面的な決定論である必要すらない。人間個人が、ある種のメカニズムに落とし込めるのであれば、それだけで自由意志は脅かされる。

また、量子論が提唱するランダム性があったところで、自由意志の助けにはならないだろう。自由意志の概念は自己コントロールを含む。量子論的なミクロの振る舞いに振り回されて予測がつかない行動をしてしまうというのであれば、それはむしろランダム性への隷属である。

その他用語集

言葉 意味
唯物論(物理主義) この世は物理的なものだけでできており、そこで起こることはすべて煎じ詰めれば物理的なもの同士の物理的な相互作用にほかならない、という見方
二元論 物理的(科学的)な世界と精神的な世界を分けて考える事
還元主義 精神状態なども物理的なものの存在によって還元(説明)できる、という主義。「意味」などについてこれに基づいて説明を試みると「神経細胞のこういう状態が…を意味する」ということである、といえるようになるかもしれないが、「意味を理解するロボット」などにはまた別途説明が必要となる。
表象 自分以外の何かを表すことを機能とする何か。「バナナ」という文字は、これ自体はバナナではないがバナナというものを表している。
自然主義 科学的知見と科学的方法とを使いながら哲学し、また哲学説も科学的知見によって反証されることを認める立場、言い換えれば科学の一部として哲学をやろうぜ、という立場。
統語論 言語について、意味のことは忘れて、どのようにどんな形の記号を並べると文になるか、文を構成する記号をどのように並べたり入れ替えたりすると別の文になるか、みたいな側面のこと。
意味論 文全体の意味が構成要素の記号の意味からどう合成されるか、みたいな話。意味論を持っている = 意味を理解したり、意味をしょりしたりできる。