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本やゲームの感想など

『荒木飛呂彦の漫画術』

恥ずかしながら「ジョジョの奇妙な冒険」は読んだことがないものの、漫画というジャンルはすごく好きで、その道の一流の人がどうやって漫画を描いているというのに興味があり手にとった。

想像通り、いや想像以上に多くのことを考えて描かれているということが、具体的な例を挙げながら説明されていて、ただただすごいなと思った。

ジョジョを読んだことがなくても漫画が好きなら十分に楽しめるし、漫画以外の創作活動や普通のビジネスに適応できる考え方もありそうなので、多くの人にオススメ。

小説感想:『ざんねんなスパイ』

ざんねんなスパイ

ざんねんなスパイ

前作『レプリカたちの夜』に引き続き、不思議な世界観で繰り広げられる小説。

前作ではレプリカを題材に本物・偽物の違い、意識の有無などを扱っていたのに対して、こちらは国に忠誠を誓った老スパイを主人公に、人種や国による差別、帰属意識なんかを扱っていたので、著者はそういう哲学的、社会的問題について散りばめるのが好きなのかもしれない。自分は(にわかレベルではあるが)その手の話が好きなので、読むのが楽しい。

相変わらず、現実にはありえそうもない特徴的な登場人物たち、謎めいた展開、すっきりとはしないエンディングではあるものの、軽妙な文章はとても読みやすい。

この文章力を使って、一度思いっきり娯楽向けの作品を描いてみてほしい(伊坂幸太郎の『陽気なギャング』シリーズのような)。

以下、印象に残った文章。


おさないころは席がとなりというほんのささやかな共通点だけで親友になれたものだ。それが大人になると親友を作るのはとたんに難しくなる。

たしかに「同じ大学を選んだ」、「同じ会社を選んだ」という共通点よりも、おさなさに伴うある種の無防備さの方が、親友を作るには役に立つのかもしれない(例外はあるにせよ)。

いままで”あいつら”という発想そのものがおかしいなどとは考えてみたこともなかった。というか”あいつら”というのが”存在”ではなくて”発想”などとおもったことさえなかった。

敵味方、俺たちお前たちの区別は誰かが引くものであって、最初からそこにあるわけではない。

「あなたはなにがしたいの?」「いうまでもないだろ。われわれスパイは任務を遂行するのみだ」「そうじゃなくて。それは政府がしたいことでしょ。わたしがきいているのは、あなたがなにをしたいのかってこと」「意味がわからないな……」「大事なことだとおもうけどな」

「所属組織がやりたいこと」に飲み込まれて「自分がやりたいこと」を見失わないようにしたい。最終的に所属組織に従うにしても。

小説感想:『13・67』

13・67 (文春e-book)

13・67 (文春e-book)

人から話を聞いただけで事件を解決に導くという安楽椅子探偵系の推理小説、短編集。

もっとも、その安楽椅子探偵役はエリート刑事で、安楽椅子探偵っぷりの描かれ方も特殊(完全に人から話を聞くだけというのは最初の1編のみで、ここの設定も風変わり)なので、普通に短編本格推理小説として手に取ればいいと思う。

舞台が香港なので人名・地名に馴染みがなくて覚えにくい、という難点はあったものの、話は上手く纏められていて面白かった。

直接の謎解きには影響はないにせよ、事件の背景には過去の香港の情勢、社会問題のようなものを含んでいたので、香港の歴史に詳しければもっと楽しめたのかなと思う。

小説感想:『月は無慈悲な夜の女王』

月は無慈悲な夜の女王

月は無慈悲な夜の女王

1960年代の SF の有名な作品の一つ。

月の管理を担っていた機械が自意識を持った人工知能的な存在となり、流刑地化、植民地化された月を地球から開放する革命の中心的な存在となっていく。

巨大な AI・機械が中央にひとつだけ存在し、日常生活、仕事、軍事の末端(ドローン的な兵器など)にはそれに類するものがほとんど登場しない(連絡手段は電話)という世界観は、「パーソナル・コンピュータ」という概念が存在しなかった時代の作品だからかもしれない。

スマートスピーカーの発達が進めば、単純な受け答えだけでなく、この作品の AI のように「この目的を達成するには何をすべきか」まで答えてくれるようになるのだろうか。

小説感想:『魔法の色を知っているか』

Wシリーズの2作目。相変わらず読みやすいです。

結末は遠そうなので、ストーリー全体としての感想は保留。