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本やゲームの感想など

健康の尺度:『The Telomere Effect: A Revolutionary Approach to Living Younger, Healthier, Longer』

一般的な健康指南に「テロメアの長さ」という指標が根拠として加えられた本です。

The Telomere Effect: A Revolutionary Approach to Living Younger, Healthier, Longer (English Edition)

The Telomere Effect: A Revolutionary Approach to Living Younger, Healthier, Longer (English Edition)

日本語版:『細胞から若返る! テロメア・エフェクト 健康長寿のための最強プログラム

内容は多方面で包括的のため、根拠のある健康アドバイス集としては悪くないものの、個人的にはちょっと微妙、という感想です。

運動や思考法、環境が人の健康さ・寿命に与える影響を「テロメアの長さ」という統一的な指標で測れるようになった、ということは確かに興味深いのですが、いかんせん個人では測定や実感が難しいマイクロスケールの話であるため、いまいちその知識が上手くモチベーションに繋がりませんでした。

本書が掲げるアドバイスも「健康的な食事をしましょう」や「定期的に運動をしましょう」といった至極当たり前のもので、目新しさはありません。それらのアドバイスの有益さはテロメアの長さへの影響を抜きにして、もっとマクロなレベルで語れるでしょうし、その方が生活への影響として実感しやすいのではと思います。

そのテロメアについても、常識的な基礎知識が最初に少し記載されている以外は、結果として「伸びた」、「縮んだ」(もしくは「長かった」、「短かった」)以上の情報があまりないため、科学方面の読み物としても物足りない感じです。

テロメアの長さの測定がもっと一般的になっていて、自分の値と本書の研究で出てきた値とで数値的な比較ができるようになっていたら、また違った印象を受けたかもしれません。細胞生物学は研究的にはとても面白く、応用研究の影響力も大きい分野だと思うので、今後の発展が楽しみです。

ゲーム感想:『大逆転裁判2』

良かった、今回は良かったです!

唐突な終わり・伏線丸投げを含めて諸々微妙だった『大逆転裁判』から2年、発売前は「もう前作の内容ほとんど忘れてるし見送ろうかな…」と思ってたりもしましたが、「今回は出来が良い」という知り合いの声に後押しされて購入。結果は大正解でした。

主要キャラクターがほぼ全員前作から続投し、彼らの人間模様がお話の主軸にもなっているので、十二分に楽しむには前作プレイが必須だと思います。細かいことを憶えていないせいで興が削がれる、ということはありませんでしたが、前作未プレイの方には先に前作をプレイすることをオススメします。公式サイトの前作のおさらい動画は内容が中途半端なのであまりオススメできません。

倫敦編決着

まず何が良かったかと言えば「倫敦編決着」に尽きるわけですが、本作は 1章から最終章まで漏れなく倫敦編決着に絡んだ話が進む章構成になっています。逆転裁判6 の 4章(寄席の事件)のような、本筋から大きく外れた章がありません*1。そういう章があること自体には反対しないのですが、本作の、使えるボリュームを使い切って本筋の伏線を張っては回収していく、という展開はプレイ中の引きの強さもプレイ後の満足感も高かったです。

死神の真実、アイリスの父親、亜双義が英国留学に拘った理由など、前作からの伏線も無事回収され、話のスケールはシリーズ最大と言えるでしょう。

キャラクター

ほとんど前作のメインキャラクターの続投ということもあって、全体的に掘り下げが進む方向で良かったです。人間関係が濃く描かれている分、より本筋のストーリーに惹き込まれる、という良い関係ができていたと思います。

今作は特にホームズの決めるところは決める万能さと、天才少女アイリスが見せる子供としての可愛さが光ってました。

その他:システム・難易度

システム周りは概ねいつも通り、という印象です。同じ証拠品でも「くわしく」で調べておかないとつきつけても却下されたり、この証拠で良いの?駄目なの?という場面があったりと、全てが思い通りというわけではありませんでしたが、大きく違和感を覚える点はなかったです。強いて言えばロード時間が若干長かったかもしれません。

おまけ

今回の早期購入特典のおまけ裁判はなかなか面白かったです。ほどよいアホらしさとクスっと笑える会話を楽しめる、「逆転裁判のおまけ」として相応しい短編でした。再配信しないらしいので、気になる方は是非お早めのお買い求めをどうぞ。


というわけで、今作は大満足の出来でした。

しかし今作が大満足だったからといって、前作のような中途半端な終わりはやっぱりやめてほしいですね…。

次回作以降、どのように話のスケールを維持しつつ作品の切れ目を綺麗にするのか、もしくは話のスケールをコンパクトに抑えつつ同じような満足感を出してくれるのか、その辺りに期待したいと思います。

*1:6-4は過去作のキャラクターをねじ込むために作られた章だとは思いますが

小説感想:『幻の女』

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

旧訳版は読んだことがないので比較はできませんが、この本の訳文はスッキリとした文章で、原作が古典ということを感じさせずとても読みやすかったです。

後で知ったのですが、訳者は「すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)」など多くの作品を手がけている方でした。「すばらしい新世界」も確かに読みやすかった、という記憶があります。

「幻の女」の真相自体は、古典作品ということを差し引いても少し無理があると思うのですが、構成やテンポの良さのおかげか、真相によって作品そのものを残念思うことはさほどありませんでした。

全体としては十分今でも通用する良作だと思います。

小説感想:『殺戮にいたる病』

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

殺戮にいたる病 (講談社文庫)

物語の軸となる犯人が本格的に性的倒錯者で、被害者の描写などちょっと気持ち悪くなる部分がある、20年ほど前の作品なので社会・技術的な現代との差から多少の違和感(警察の捜査力が低すぎないか、など)を感じてしまう*1、などちょっとしたマイナスポイントはありましたが、最終的に謎が明かされる瞬間にはその辺りを我慢して最後まで読み進めて良かった、と思うだけの驚きがありました。

我慢と言っても、文章は読みやすく、全体としてもコンパクトな作品なので、少しグロテスクな描写でも大丈夫、であれば十分楽しめる本だと思います。

*1:1990年代後半~2000年代は、その間からその後に技術が飛躍的に進化しているため、どうしても「現代的のように見えて現代ではない、どこかリアリティに欠けている」ように思えてしまいます。インターネット、携帯電話以前の世界が上手く想像できないから、かもしれません。

小説感想:『すべての見えない光』

プロット、構成、文体、どれも非常に優れた素晴らしい小説でした。

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

戦時下で交錯する無線技士の少年と盲目の少女の運命を描いた物語、ということで決して明るい話ではありませんが、安易なお涙頂戴ものとも全く異なり、詩的で美しいです。

それを語る文体も描写がとても豊かで、人物や街の様子、心の内がリアルに想像できました。

構成として特徴的なのは、

  • 冒頭で、運命の日となるサン・マロ爆撃当日の開始を描いた後、章ごとにその日とそこに至るまでの過去を交互に書く
  • 各章も主要人物それぞれの小さなエピソードを代わる代わる積み重ねることで組み立てられている

というスタイルですが、前者にはどこがどう繋がるんだろう?という興味をそそられ、後者からは全てに意味があり無駄がない、という印象を受けました。後者の方は単純に区切りが多く短い隙間時間でも読みやすい、集中力を保ちやすいという点でも良かったです。