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小説感想:『ブルーローズは眠らない』

ジェリーフィッシュは凍らない』で鮎川哲也賞を受賞した市川憂人氏の推理小説第二弾。

ブルーローズは眠らない

ブルーローズは眠らない

今作のテーマは密室トリック。

密室の謎解きには大きなポイントが2つあり、1つは「これはその可能性を考慮して然るべきだった!」と納得いくもの、もう片方は「うーん、少しアンフェアではないか」という印象でした。読み直してみるとアンフェアとは言い切れず、解ける人には十分解けそうですが、ちょっとすっきりしないです(ただの負け惜しみかもしれませんが…)。

物語上の仕掛けもポイントは2つ(1つに気づいた後、そこからもう1つに気づけるかどうか、と言えるかもしれません)。こちらはどちらもきちんと読んで考えればわかりそうなもので、上手く機能していると思いました。自分は1つ気づいたところで詰まってしまってしまい先を読んでしまいましたが、今振り返ると、1つ目に気付けばそこから自然に繋げられたはずでは…と悔しい思いをしているところです。

「解けるミステリー」として良い作品なので、これから読む人にはぜひ最終章(エピローグを除く)を読む前に一度立ち止まって、関係者の人間関係や密室トリックを解くことにチャレンジしてみて欲しいと思います。


後は、シリーズ物としての感想です。

前作から引き続き、現実とは科学の発展の様子が少し異なる1980年代のU国が舞台。今回は不可能の象徴とされた「青いバラ」の開発が話の中心にあり、遺伝子工学についても語られるのですが、ジェリーフィッシュよりも汎用的な技術で、作中世界でも飛び抜けた業績であること、特に捜査に応用できてしまいそうなこと、が若干気になりました。

1980年代の架空世界を扱っているのは、ケータイや監視カメラがはびこり、科学捜査が発達した現代社会ではなしえない「本格ミステリー」を成立させるためだと思うのですが、このまま「新技術 × ミステリー」路線で進むとそれが危うくなるのでは、と。

もちろん作中で扱った科学技術を続編でまともに扱う必然性もないですし、「まだまだ実際の捜査には使えない」の一言でも十分な説明にはなるのですが、そういうことが続いたり、何度も「科学界全体で(少なくともこの先しばらくは)不可能と思われていたことを、天才が急に(密かに)成し遂げた」みたいな設定を事件の背景に使うことで、作中世界のリアリティが薄まることがなければ良いな、と思います。まぁ、あくまでメインはミステリーのシリーズなので、あまり心配はしていませんけど。

何にせよ、今作も面白かったので、次の作品にも期待しています。