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意味ってなんだ:『哲学入門』

「意味」や「機能」、「目的」とは何だろう?「石ころ」みたいに物理的に存在するものとは何か違うよね?といった感じの「ありそうでなさそうでやっぱりあるもの」について唯物論(物理主義)的なスタンスでそれらの存在と起源を説明することを目指した本。

2回通しで読んでようやく「なんとなく言いたいことはわかってきた気がする」(しかし言っていることがわかったわけではない)という感じになれました。うーん、難しいですね。特に後半の「自由」や「道徳」と「決定論」の両立の辺りは、直感との乖離が大きく頭が納得することを拒んでいるようです。

しかしこういう普段考えもしないようなことを考えてみる、というのはなかなか面白く、直感と反しているというのはその分刺激的です。

文体もフランクで読みやすく、わからなくてストレスが溜まるということもありませんでした。

哲学入門 (ちくま新書)

哲学入門 (ちくま新書)

同じ著者の『恐怖の哲学』もおすすめです。こちらの方がもう少し実践よりというか実体験よりで具体的なので、読みやすいかもしれません。


以下、内容についてもメモ。かなり端折っています。

心をもつ・意味を理解するには

心をもつ、意味を理解する、というのは何ができるか、という機能・能力の問題ではない。その機能が何のためにあるのか、つまり機能の目的の存在様式の問題である。

人間によって設計された人間のためのロボット(お掃除ロボットなど)がどんなに優れた状況判断能力(ゴミを見つけて拾う、バッテリーが切れそうになったら充電台に向かう)を持つようになっても、その機能があくまで設計者の問題(部屋を綺麗にしたい)を解くために用いられている限り(つまり人間の道具である限り)「心も持っている」とはいえないのではないか。

ロボットが自分自身の欲求・問題を持ち、その充足・解決のために環境への適応を試みるようになった時、はじめてそれは「心を持つ」といえる。

目的論的意味論

「本来の機能」という概念に注目して表象を分析し、意味を与える。ここでの「本来の機能」は「起源論的定義」と呼ばれる、進化の歴史に訴えた定義に基づく。

これは「SがもつアイテムAがBという本来の機能を持つ」というための必要十分条件を「SにAが存在しているのは、Sの先祖においてAがBという効果を果たしたことが、生存上の有利さを先祖たちにもたらしてきたことの結果である」とすることである。

この定義は、何らかの問題があって本来の機能が果たせなくなっているものでも条件を満たすことができ、また、本来の機能と副次的な機能を区別することができる。

また、この「本来の機能」の考え方は進化以外の条件学習等にも適用できる。

スワンプマンの思考実験

目的論的意味論に対する判例として扱われる。

突発的にある人間と全く同じ物理状態を持つコピーが生み出された場合、それは進化の歴史を持っていないためにその「表象」は意味を持たないことになる。しかし唯物論的には同じ物理状態であるのに一方(オリジナル)は意味を持ち、コピーは意味を持たない、というのは受け入れがたい。

概念分析と理論的定義

概念分析とは、われわれが普段使っている概念の内容を分析して、できればその概念の必要十分条件を定式化する作業のこと。概念分析を主な手法として営まれている哲学の流派は分析哲学と呼ばれている。

概念分析には、誰の概念が分析されているのか、必要十分条件を満たしているかなどを判断をするのは誰か(哲学者で良いのか)という問題がある。分析哲学に対する批判的な潮流として実験哲学というものがあり、こちらは「われわれの概念」を分析するものとして、大衆を対象にした心理実験などを行っている。

一方、理論的定義では、概念ではなくことがらそのものをターゲットとし、理論の目的のために概念を新しくつくる、改訂することを目的としている。理論的定義の評価基準は、理論の目的にどれだけ適っているかであり、概念分析の評価基準となるわれわれの日常的な概念にどれだけ合致しているか、ではない。

決定論と自由意志・道徳

科学の発展によって、人間(脳)もまた入力に反応して出力を行うメカニズムである、ということが段々と明らかになりつつある。これは「われわれの行為が、環境からの入力と、内部のメカニズムで決まってしまうのであれば、自由意志の余地がどこにあるのか。自由意志の余地がないのであれば、道徳という概念も意味がなくなるのではないか(だってその人の意志の結果ではないのだから)」という方向に帰結する可能性がある。

ここでの決定論はラプラスの悪魔のような、世界全体に対する全面的な決定論である必要すらない。人間個人が、ある種のメカニズムに落とし込めるのであれば、それだけで自由意志は脅かされる。

また、量子論が提唱するランダム性があったところで、自由意志の助けにはならないだろう。自由意志の概念は自己コントロールを含む。量子論的なミクロの振る舞いに振り回されて予測がつかない行動をしてしまうというのであれば、それはむしろランダム性への隷属である。

その他用語集

言葉 意味
唯物論(物理主義) この世は物理的なものだけでできており、そこで起こることはすべて煎じ詰めれば物理的なもの同士の物理的な相互作用にほかならない、という見方
二元論 物理的(科学的)な世界と精神的な世界を分けて考える事
還元主義 精神状態なども物理的なものの存在によって還元(説明)できる、という主義。「意味」などについてこれに基づいて説明を試みると「神経細胞のこういう状態が…を意味する」ということである、といえるようになるかもしれないが、「意味を理解するロボット」などにはまた別途説明が必要となる。
表象 自分以外の何かを表すことを機能とする何か。「バナナ」という文字は、これ自体はバナナではないがバナナというものを表している。
自然主義 科学的知見と科学的方法とを使いながら哲学し、また哲学説も科学的知見によって反証されることを認める立場、言い換えれば科学の一部として哲学をやろうぜ、という立場。
統語論 言語について、意味のことは忘れて、どのようにどんな形の記号を並べると文になるか、文を構成する記号をどのように並べたり入れ替えたりすると別の文になるか、みたいな側面のこと。
意味論 文全体の意味が構成要素の記号の意味からどう合成されるか、みたいな話。意味論を持っている = 意味を理解したり、意味をしょりしたりできる。