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人類あるいは全ての生物の起源:『生命、エネルギー、進化』

生命・細胞がどこで、どのようなプロセスで発生したのか、という命の起源の問題に対する答えから始まり、その説を元にすれば有性生殖はなぜ生み出されたのか、老化と死はなぜ避けられないのか、という現代の生物が持つ特徴を導き出せる、ということを示す。そこからさらに、宇宙人がいたとしても細胞レベルでは同じような制約を持っているだろう、という主張までも含む、大きな仮説を描いた本。

生命、エネルギー、進化

生命、エネルギー、進化

おそらくこの本を手に取った多くの人と同じく、ビル・ゲイツ氏が2016年のオススメとして紹介していた本の内の一冊であったため読んでみました。

エネルギーの生産プロセスなどの化学系の説明は詳しいものの難しく、完全に理解できたとは言い難いです。ただ、それでも図が多いので雰囲気を掴むことは出来ましたし、全体の主張の面白さは十分に感じることはできました。

「いま、なぜ生命はこうなっているのか」という問への答えでもあるので、歴史的な話にあまり興味がない人でも楽しめる本だと思います。

有酸素能と生殖能力

特に興味深かった点は、有酸素能と生殖能力のトレードオフの関係とそこでのミトコンドリアの役割。

生物として有酸素能が高い状態しか許さない(エネルギー効率のよい細胞を必要とする)構造を持つと、(真核細胞の)核の DNA とミトコンドリアの DNA で許容される組み合わせが減り(上手い組み合わせでないと、そのエネルギー需要を満たせない)、結果として生殖能力は落ちる(胚・受精卵の段階で死に至るなど)。

例えば鳥類は飛翔のために極めて効率の良いエネルギー代謝能力が必要としているが、鳥類のミトコンドリアDNAのバリエーションは少ない。これは飛翔に不適なDNAパターンは淘汰された(他のパターンを持った個体が生き残れなかった)ため。また、DNAのパターンが減るため環境変化への適応能力も低下する。鳥類が渡りを行うのは、同じ場所で環境変化に対応するよりも飛翔して別の環境に移る方が鳥の体にとって理にかなっているからかもしれない。

逆にエネルギー需要が低く生殖能力の高い種は、環境変化への適応性は高まる反面、病気のリスクは増え、寿命は短くなる(生まれる段階での淘汰圧が低い)。優生学的な簡単から言えば、個体を選別して有酸素能の高い組み合わせて子孫を生み出していけば、寿命は伸びる。ラットでは30%程度の伸びが確認されている。