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論文メモ:『Do Artifacts Have Politics?』

3行まとめ

  • 私達がテクノロジーと呼ぶものは世の中に秩序をもたらす手段という意味で、政治・法律などと変わらない面がある
  • 設計者・開発者の意図の有無に関わらず、テクノロジーそれ自身がもつ性質がある種の政治形態・組織形成を促進しうる
  • 一度あるテクノロジーが採用されて普及に至ると、そのテクノロジーが要請する社会形態が固定化されやすくく、それに反対する主張は夢物語や愚問とみなされかねない

以下の記事で紹介した本で紹介のあった気になった論文『Do Artifacts Have Politics(PDF)』を読んでみました。

edx.hatenablog.com

「テクノロジーそのものは中立の存在であり、使う人がその善悪・政治性を決める」と思い特に疑ったことがなかったので、テクノロジー自身の持つ性質がある種の政治形態・思想・行動を促進しうる、という考えは新鮮で、言われてみればなるほど、という感じでした。テクノロジーは個人に自由と力を与える一方で、その効率的な運用、安全な管理には統制された組織が必要という面もあるということですね。

また、下に例を挙げていますが、陰謀論的に意味を込めて設計された都市、施設というのも面白かったです。良くも悪くも、技術力と権力を持った個人や組織は色々な形で影響力を行使できる例と言えそうです。

政治性の考えられるテクノロジーの例

そもそもその種の意図を持って設計されたものもあれば、結果的にそうなってしまったもの、というものもあります。

  • ニューヨークの極めて低い高架橋は、公共バスの活用を妨げようという意図でそのように設計された(公共バスの利用者の多くは黒人であり、自家用車を持っている白人を優遇する意図があった)
  • ストリートファイトの勃発を防ぐために街道の幅を広く造った
  • 大学の広大な敷地とビルには学生運動を分散させる目的があった
  • 原子力発電を安全・効率的に運用するには中央集権的な全体主義国家が必要である一方、太陽光発電は分散的なコミュニティに適合しやすい
  • 原爆は、それがある限りそれを管理する強力な権力の存在を要請する
  • 18~19世紀の製造技術や輸送技術、交通手段の発展のために中央集権型組織が必要とされた
  • 大学で研究開発された機械式トマト収穫期と、それに適合した固めのトマト品種は、それらを導入できる大型農家に恩恵をもたらした一方で多くの小型農家を廃業させた
    • この件で大学は、税金を使って一部の人間を優遇し他方に不利益をもたらす研究を行ったとして訴えられた
    • 訴えに対して大学は「そのような主張を認めれば実用性のあるあらゆる研究が廃絶されたしまう」と主張した