書評:『融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』
3行まとめ
- IoT の発展などにより、ネットの情報は「人が作り、それを他の誰かが見て、理解し、適用するもの」から「ネットにつながったデバイスが直接生成・利用するもの」に変化する
- ヒューマンインターフェースの目標は、人が操作対象との間に一体感を感じられるようにすること(キーワード:自己帰属感)
- デバイスの携帯性の向上により、サービスやプロダクトは「同時にいろいろなことが起こりうるユーザの生活のごく一部」となったので、その中に上手く溶けこむよう利用文脈から意識してデザインをする必要がある
ユーザエクスペリエンスやインターフェースデザイン、IoT についての本として最も腑に落ちた本になりました。
「ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論」という副題が示すように、ソフトウェアや Webページといった狭い領域の中の最適化の話ではなく、心理学・哲学的思考やコンテクストなどを含めて包括的書かれています。とてもオススメ。
- 作者: 渡邊恵太
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2015/02/18
- メディア: Kindle版
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以下、とても冒頭の3行ではまとめきれなかった、本書で挙げられていて気になったキーワードやコンセプトについて、項目毎の 3行まとめ。
メディアはインターネットただ1つになる
- デジタルで、どんなデバイスからもアクセス可能なインターネットは、メディア(情報媒体)を1つにした
- Webページを見る、という行為は文書や百科事典のメタファに過ぎない
- IoT の発展等によって、インターネットの知識・情報はアクチュエータなどのデバイスと繋がることで「人がアクセスするもの」から「人の生活に働きかけてくるもの」になる
実世界メタファの限界と「体験」の設計
- Twitter のように「実世界の何か」の見立てではない、新しい体験が生まれている
- メタファの利用は、その参照元からの制約を受けるという欠点がある
- 全ては「体験」という結果に繋がるので、人の感じる体験の価値を高めるための設計という方向に進んでいる
道具と環境の透明性
- 道具の透明性:意識せずに利用でき、自分の身体や能力が拡張されたという感覚を得られる性質(キーボード、ハンマーなど)
- 環境の透明性:環境側に配置された特性・技術を意識せずに利用できる性質(建築、インフラなど)
自己帰属感:投げたボールはどこまで身体か?
- 自己帰属感:「この対象は自分のものである」という感覚で、自分の意志と対象の動きの連動性によってもたらされ、その間にずれがあると「モッサリ」や「ヌルヌル」といった感覚が生まれる
- 物理的接続がない対象(投げたボール、カーソルなど)に対しても感じられることがある
- アニメーションやコマンドジェスチャからは自己帰属感は発生しない
情報の道具化:ググルは易く、行うは難し
- 現在の Web の在り方では「情報を得る→理解する→行動して問題に適用する」というプロセスのうち情報を得るところまでしかできない
- 「人間の介在の必要性」がインターネット上の膨大な情報を活用する上でのボトルネックになっている
- アクチュエータを中心としたロボット技術などによって、より直接的な情報の活用が期待できる
融けるデザイン
- 手軽に持ち運べるデバイスの普及により、「いつどこでどのように使われるのか」という文脈の重要性が増している
- パラレルインタラクションが前提となり、1つのソフトウェア・サービスが、長時間、集中して操作することを要求することは望ましくない
- 「あなたのサービスはユーザーの生活のごく一部でしかなく、上手く共生していかなければならない」
最後に本書の目的のようなものを引用しておきます。
私たちのこの生きる世界もひとつのOSと考えるべきである。この世界にはデザイン、作法があり、ガイドラインに合わせて設計することが、人-環境のパフォーマンスを発揮できる。だからその世界のOSの仕組みを理解したいのである。
世界の OS の仕組みを理解したい方はぜひ。