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全員の給料が増えても平均幸福度は上がらない

え、皆が豊かになれば皆幸せになるのでは?という方に簡単な質問を。

  1. 皆の収入が変わらぬまま、あなたの収入が増えたらあなたはどう感じるでしょう?
  2. あなたの収入が変わらぬまま、皆の収入が増えたらあなたはどう感じるでしょう?

後者を想像したとき、自分の幸福度は下がるだろう、と考えたのであれば、全員の給料が増えても全体の平均幸福度は上がらない説もなんとなく受け入れられやすくなるのではないでしょうか?

というわけで、今回は経済成長と幸福度について『Will raising the incomes of all increase the happiness of all?』という論文を読んだ内容についてまとめます。

どんな論文?

Easterlin, Richard A. "Will raising the incomes of all increase the happiness of all?." Journal of Economic Behavior & Organization 27.1 (1995): 35-47.PDF

1995年の論文なので、20年前ですね。引用数は2000を超えていたので、きっと有名な論文なのでしょう。その後いろいろな追加調査などが行われたものと思いますが、気を引くタイトルと適度な長さに惹かれたのでこれを選びました。日本に関するデータも含んでいます。

幸福度は「客観的な自分の状態」と「主観的な生活レベルの基準」の比較で決まる

全員の給料が増えても平均幸福度が上がらない原因は、端的に言えばこれに尽きます。

全員の給料が増えると、社会全体の生活レベルの向上に伴い満足を覚えられる生活レベルの基準自体が上がってしまい、自分の給料が増えた分による幸福感を打ち消してしまう、ということです。

社会が豊かになると欲が増える

また、豊かな国と貧しい国(もしくは経済成長を遂げた国の今と昔)で、それぞれ「幸せになるために必要な物は?」という質問をしたところ、豊かになるほど欲の対象の数が増え、求める質も上がる、という調査結果もあります。

例えば「良い服」や「別荘」のようなものを回答に挙げる人の割合は、豊かな社会であるほど増えるのです。貧しい社会では、そもそもそのような物が幸福に必要とは思われない、ということです。

更に注目すべきは、収入と物欲の基準は、同じ方向というだけでなく、同じ割合で増えているということです。例えば「New York の労働者が最低限快適な生活をするのに必要な予算」は、おおよそずっと、一人あたりの実質GNPの半分、であるとされています。

日本は戦後5倍豊かになったが幸福度は全く向上していない

上に挙げたような視点から得られる、経済成長して収入が増えても幸福度は向上しない、という説の証拠となるデータが論文中にいくつか挙げられており、タイトルの件はその一つです。日本は 1958年~1987年にかけて、一人あたりの実質収入が5倍になり、車や家電製品の普及率も爆発的に伸びたにも関わらず、幸福度はまったく向上していない、という結果が出ています。

アメリカや欧州でも同様に、各国で 25%~200%程度の実質GDPの成長がありましたが、幸福度に相関は見られていません。


と、簡単にまとめるとこんな感じの内容でしたが「全員の給料が増えても平均幸福度は上がらない」という主張について、どう思いますでしょう?納得できましたか?それとも、やはり収入が増えれば幸せになれるはず、と思いますか?

どちらにせよ、全体や平均のコントロールは個人の手が及ぶところではありませんので、ここから得られる教訓は「上を見たらキリがない」というところですかね。ほどよいところで満足できる心を持ちたいものです。