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嘘の見分け方:Cues to Deception と Self-Presentational Perspective

Cues to Deception』という、嘘を付いているかどうかを見分けるための手がかりについての論文を読みました。

この記事では、ある手がかり(声のトーン、体の動きなど)が、なぜ嘘を付いているかどうか見分けられるのに役に立つと考えられるのか、その背景にあたる Self-Presentational Perspective についてまとめます。

検証の結果、即ちどのような手がかりがどのような状況で嘘を見分けられるのに役立ちそうか、については今回は書いていませんので、そちらが気になる、という方にこの TED Talk をオススメしておきます(論文の著者とは異なる人ですが)。

どんな論文

DePaulo, Bella M., et al. "Cues to deception." Psychological bulletin 129.1 (2003): 74.

嘘をつく時、人はどんな心理状態になるだろうか、その心理状態は振る舞いや声の調子など、観察可能な挙動にどのような影響を与えるだろうか、ということを考察し、その考察の正当性を、今まで研究から集めたデータで調査した、という論文です。

Abstract の和訳

人は嘘をつくとき、真実を語る時と比べて違うように振る舞うだろうか?1338個の評価をもとにした158の手がかりについてまとめた結果を報告する。結果は、いくつかの点において、嘘をつく際は真実を語る場合と比べ社交性が低くなり、説得力がない話をし、否定的な印象を与え、緊張が見られた。また、嘘の話には、通常の話に見られる不完全性と珍しい内容が少なかった。しかしながら、多くの挙動は、虚偽との繋がりは見られないか、あっても弱い繋がりであった。虚偽の手がかりは、人々がその嘘を成功させようという動機を持っている場合により顕著に見られ、その傾向は動機がお金や品物からではなくアイデンティティに由来するものであると特に強かった。また、虚偽の手がかりはその嘘が罪に関するものであると強かった。

Self-Presentation と嘘と真実

では今回の記事の主題である Self-Presentatinal Perspective について、まずは Self-Presentation とは、から。

Self-Presentation とは、ずばりそのまま「自分をプレゼンすること」です。プレゼンテーションという言葉から受ける印象のとおり、Self-Presentation にはどのような印象を与えたいかという意志と、そのためにどのように見せるかの工夫がある、という意味合いがあります。

人はモノを得るためや自分の都合のため、罰を避けるために嘘をつくことがありますが、嘘をつくもっとも一般的な動機は、自分自身を実際よりも洗練された、徳のある人間のように見せたい、という欲や、拒絶や不賛成によって自分や他人の感情が傷つれられるのを避けたい、という精神的な利益のためです。

つまり、嘘とは「アイデンティティが主張され、印象が操作される」領域にあると言えます。

しかし、これは嘘のない会話とさほど変わりません。真実を語る人も、同じような目的で、Self-Presentation を編集します。違いは、彼らが「嘘は言わない(honest)」領域に留まっているということです。

Self-Presentational Perspective と嘘の見分け方

さて、Self-Presentation に絡んだ嘘が多い、という事実からは、Self-Presentation の視点から考えることで(Self-Presentational Perspective)、嘘と真実を見分けられる可能性があると言えます。

嘘が成功する条件は、その嘘が誠実に見えた場合です。一方で、真実を語っている場合であっても、嘘をついている場合と同様に、不正直に見られてしまえばコミュニケーションに失敗してしまいます。つまり、コミュニケーションが成功する条件は嘘の場合も真実の場合も変わりません

正直者と嘘つきの違いは、事実を語っているという主張に正当性があるかどうかです。嘘つきのみが持つ、自身の主張と、自身が実際に信じている真実との違いから、虚偽かどうかの手がかりが得られると考えられます。

仮定1. 話者は嘘を真実ほど完全には受け入れられない

嘘をつく際は、それが嘘であるがゆえに、その嘘を守ろうとする意志や、その嘘を支える証拠が真実を語る場合と比べて弱くなると考えられます。その結果、嘘をつく場合は切実さが弱くなり、積極性が低く、居心地を悪く感じ、緊張を感じる、と推測できます。

仮定2. 話者は嘘をつく際は、真実を語る場合よりも意図的な思慮・行動を経験する

嘘をつく場合は、真実らしく見せようとする努力を必要とし(真実を語っている場合は、それを当然のものとしてさほど意識しない)、その嘘が成功しているかどうかを気にしたり、本当の感情の抑制や体の動作、声の調子のコントロールに意識を向けたりするため、会話そのものに関するパフォーマンスが低下する傾向にある、と考えられます。これは、積極性や説得力の低下、居心地の悪さや緊張感に繋がると推測できます。

嘘の動機と意図的な思慮・行動

嘘を成功させたいという動機が強くなるほど、先に上げたような事を強く気にするようになり、より顕著に嘘の手がかりが見られるようになると、考えられます。

ただし…

自己を抑制しようとする意図的な行動の増加が、必ずしもパフォーマンスの低下を招くとは限りません。ネガティブな思考や、個別の要素から注意をそらすことでパフォーマンスが向上することがあります。また、嘘をつく際に必要とする自己抑制が、真実を語る場合よりも常に難しいとは限りません。

嘘をつくことは真実を語ることより難しい、とは限らない

嘘をつくことは、事実と反するストーリーを作り上げる必要性、罪の意識、ストレスなどから、真実を語るよりも難しく、それが何らかの手がかりを残す、という説がありますがこの論文ではそれを否定しています。多くの人は、日常的に感情や意見について嘘をつくことに慣れており、ほとんどの場合さほどの罪を感じないからです。友人から、あまり出来の良くなかったと思われたプレゼンテーションについて感想を求められた場合など、状況によっては真実を伝える方が難しいと感じる場合もあります。

よりスケールの大きな話の場合も同様に、伝えにくい話、例えば自身の失敗や、身近な人の不幸の話をする場合は、それが真実であっても注意深く話の構成を考える必要があり、ストレスも感じます。

また、どこかから借りてきた話を元にした嘘の場合などは、話を作る労力は必要としません。嘘をつくことの方が難しい、という考え方は、主に話者が新しい話を作りあげたときに当てはめられます。ここからは、嘘を準備する時間がなかった場合や、嘘をつく時間が長くなるほど、新しい話を即興で作る必要性に迫られるために認知的負荷が大きくなる=何らかの手がかりが得られる可能性が高まる、といえます。

最後に、少し例外的な状況としては、話者にとって嘘の方が真実より受け入れられやすい場合というものもありえます。

英雄になりたかった男

例えば英雄になることに憧れ、自分がそうであると語り続けた男にとっては、その嘘の方が、事実(おそらくは凡庸な過去・現状)よりも心地よく、説得力をもって語れるようになる、という事がありえます。

まとめ

ここまでで、Self-Presentation という観点から、嘘は日常的なものであること、嘘をつく場合も真実を語る場合も、話者には何らかの意図があり、その意図を伝えるためには上手く話を組み立て誠実に見える必要があること、場合によっては嘘をつくほうが真実を語るよりも難しいことを示しました。つまり、嘘と真実の差はそれほど明確ではありません。

しかしながら、嘘の場合には自身の主張と、自身が実際に信じている真実との間に違いがあるために、そこから生じうる心理状態とその結果起こりえる挙動を推測することで、なんらかの手がかりを得られる可能性があります。

また、大前提として、それぞれの手がかりは個別に考えると弱く、状況によっては参考にならない場合もありますが、嘘の内容や話者の動機といった何らかの条件と組み合わせることで有効性が高まると考えられます。

最終的には、以下が、ここから予測される嘘を示す手がかりと、その手がかりの大きさを変化させる要因になります。

嘘をついているかどうかの手がかりのカテゴリとその具体例

社交性、積極性が低下する(less forthcoming)
  • 返答が少なく、短く、躊躇いがちになる
  • 返答を始めるまでの時間が長くなり、話し方がゆっくりになる
説得力が低くなる
  • 矛盾点が増える
  • 会話に集中しない
  • 会話の対象から自分を遠ざけようとする
  • 流暢さが低下する
前向きさが失われ、居心地を悪く感じる
  • 否定的なコメントが多くなる
  • 協調性が低下する
  • 魅力的に見えなくなる
緊張する
  • 声のピッチが上昇する
  • 瞳孔が広がる
  • まばたきが増える
  • そわそわする、何かをいじる
通常の会話に見られる不完全性や珍しい内容が少なくなる
  • 自分の言動を訂正する回数が減る
  • 自分の記憶の不確かさを認める回数が減る
  • 余分な情報への言及が減る

手がかりの強さを変える要因

  • 嘘の内容が社会的・道徳的な違反行為に関するものであるかどうか
  • 嘘を成功させる動機の強さ
  • 事前に嘘を準備する時間があったかどうか
  • 嘘をつき続ける時間
  • 嘘をついている話者と聞き手との関係

さて、これらの手がかりの有効性は実際はどうだったでしょう?
その結果は後日、まとめようと思います。

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