小説感想:『ファイト・クラブ』
- 作者: チャックパラニューク
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/05/29
- メディア: Kindle版
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小説としてのタイプは全く異なりますが、最近読んだ『タタール人の砂漠』と同じように人生について考えさせられる小説でした。
『タタール人の砂漠』は「明らかに充足はしていない(が平穏ではある)環境で無為に過ごしていってしまう...」という切迫感の欠如の静かな恐ろしさ、という感じでしたが、こちらは「(表向きは仕事もあるしお金もあるけど)本当にそれでいいのか?」という焦燥感が鬱屈した形でひしひしと伝わってくるような感じです。
家具を購入する。これで死ぬまで新しいソファが必要になることはないはずだと自分に言い聞かせる。思い切って買っちまえよ、二、三年は、少なくともソファ問題に頭を悩ませることなく暮らせるぞ。次は理想の皿一式。次は完璧な別途。カーテン。ラグ。
そのころには素敵な巣のなかで身動きがとれなくなっている。かつて所有していたものに、自分が所有されるようになる。
や(「巣」という表現がいいですね)
「一目置かれたくて、やたらにものを買い込む若者は多い」
(...)
「自分が本当に欲しいものがわからない若者は多い」
(...)
「欲しいものがわからないと」...「本当には欲しくないものに包囲されて暮らすことになる」
など(こちらも「包囲」という言葉の選びがいいですね)の文章が印象に残りました(物に限らず時間の使い方などにも通ずるものがありそう)。
あとは
ぼくの親父は大学を出ていなかったから、大学だけは出ておけとぼくに言った。卒業すると、ぼくは長距離電話をかけて訊いた。お次は?
親父にはこたえられなかった。
就職し、二十五歳になると、長距離電話をかけて訊いた?お次は?親父には答えられず、結婚でもしろと言った。
も、さもありなんだなぁ、と。
物語的にも再読しがいがあるタイプなので、また少し時間が経ってから読み直したいです。