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小説感想:『虚ろな十字架』

相変わらず東野圭吾氏の作品は読みやすいなぁ、というのが第一印象です。

本書は「死刑の是非」という重めのテーマを扱っている、ということだったので「さまよう刃」くらいキツいものを覚悟していたのですが、その点は良くも悪くも大分ライトに抑えられていました。

話の軸である、メインの視点となる登場人物にとっての「過去、娘が殺された事件」と「現在、離婚した妻が殺害された事件」が現在その人物に与えている影響が限定的なので、読み手としても事件の遺族というよりは事件の関係者、くらいの距離感での感情移入になります。

他の点でも、現在の事件では妻側にも非がないとは言い切れないと思わせようとしていたり、過去の事件で加害者を弁護した弁護士の動機に対する突っ込んだ追及はなかったりと、事件の被害者・遺族が感じる「理不尽感」が出ることを意図的に控えているように思いました。

もう少し踏み込んだものを期待していた、という想いもありますが、これはこれでバランスが取れているのかもしれません。

虚ろな十字架 (光文社文庫)

虚ろな十字架 (光文社文庫)