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自由市場という幻想:『最後の資本主義』

資本主義を脅かしているのは、今や共産主義全体主義でもなく、現代社会の成長と安定に不可欠な「信用」の弱体化である。大多数の人たちが、自分や子どもたちに成功への機会が公平に与えられているとは信じなくなったとき、(中略)現代社会は瓦解し始める。そして「協力」の代わりに出てくるのが、コソ泥、不正、詐欺、キックバック汚職、といった大小様々な破滅だ。

最後の資本主義

最後の資本主義

極めて限られた少数の人々への富の集中と、相対的に貧困化するその他の人々の失望が世の中を崩していく、というのはさもありなん、という感じです。本書では特に富の集中のメカニズムが詳しく解説されていますが、これを読むとこの流れを覆すことの難しさに思いやられますね(別に覆そうと何かしているわけではないですが)。

「世の中の大多数を占める中間層以下の人達が政治的権力(交渉力)を取り戻すことでこの流れを変えてることはできる」とはされていますが、果たして本当にそれが実現可能なのかどうか。経済力と政治力の結びつきの強さと、それらが教育・広告に及ぼす影響力を考えると、どうかなー、と悲観的になります。

本自体は全体の章構成も適度に分割されていて、不自然に感じる訳文もなく読みやすかったです。


「自由市場」という幻想

「自由市場」とは政府や国際社会が作ったルールに基づいて運用されるものであり、「自由市場」と「(大きな)政府」のどちらが良いか、という議論は的を外している。市場のルールは経済に対して政府のサイズよりも遥かに大きな影響力を持つ。

経済力と政治力の循環

裕福な個人・業界はその経済力を政治献金やPR活動という形で政治力に変換し、市場のルール(法律)がより自分たちに有利になるように働きかけることがで循環的に経済的支配力と政治的権力を強めることができる。

この力は策定されるルールの内容のみならず、その執行力にも影響を与える。例えば特定の業界が、ある法律を好ましく思っていないが、表立って反対を表明して国民の反発を買うことを避けたいという場合、法律そのものに反対するのではなく、その法の執行資金を与えないように予算配分に働きかけるという手法がある。この手法はほとんど注目されることなく実質的に法を無効化する。

仮に何らかの違法性を国から追及されたとしても、潤沢な資産を持った業界は優秀な専門家・弁護士を雇い入れ、自分たちに有利な結論を引き出すことができるだろう。

貧困者に届かない寄付

寄付は税を控除される。その寄付先がオペラや美術館、一流大学といった、価値があるとはいえ、本当に補助が必要な貧困者に関わりのないものでも、である。更には、寄付を受けた団体や基金も、その事業活動で得た収入に対して税金を払う必要がない。

つまり、富豪達は自分達に関係のある寄付先を選んでお金を使うことで、より富の集中を加速させることができる。逆に政府は税収を失い、貧困者への補助なども含めた予算が削られていく。