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脳の理解への道のりは遠い:『コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか』

満足度:★★★☆☆

『脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか』というタイトルから「いま現在わかっている、コネクトーム(脳の配線)と脳の高次機能(記憶、学習など)の関係について解説する」という内容を期待していたのですが、実際に読んでみると「まだコネクトームについてはほとんど解明されていない」という現状において「コネクトームの理解の重要性について語る」という側面が強く、「もしコネクトームが得られれば(そしてその理解が進めば)…」という記述が目立ちました。

エピローグのタイトルは「コネクトーム研究がすべてのはじまりとなる」。この本は、著者がこの主張をするために書かれたものなのでしょう。納得のできる内容ではあったものの、仮定や推測、未来の話が多く、自分の期待とはマッチしなかったので、満足度は普通くらいで。その辺りを折り込み済みで読んでいればまた違った評価だったかもしれません。

(訳者の青木薫氏って名前をどこかで見たことあるなーと思ったら『フェルマーの最終定理 (新潮文庫)』などを訳していた人でした。どおりで読みやすかったわけです。)

コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか

コネクトーム:脳の配線はどのように「わたし」をつくり出すのか

部毎の内容について、以下で簡単に紹介。

第1部 - 脳は大きい方がいい?

脳の大きさを基準に知能の高さや障害の有無の判定を行う骨相学的なアプローチの限界の提示し、脳の接続、つまりコネクトームを理解する重要性を説いています。納得できる主張です。

第2部 - コネクショニズム

ニューロン同士が繋がりを形成し、情報をやりとりする方法と、その繋がりが何を意味するかについて、脳に関する本ではお馴染みの、シナプスニューロンのスパイク、加重投票モデル辺りをカバーしています。先の章を読むための予備知識をつける段階。ある程度事前知識を持っていたとはいえ、読みやすかったと思います。

第3部 - 脳を決定づけるのは遺伝か環境か

ある種の遺伝子異常が脳に与える影響や、学習による脳の変化について書かれています。脳のサイズ、ニューロンシナプスの数だけでは診断を下すのに十分な情報とは言えず、どのようにニューロン間の接続が変化したかを測定することが必要であるという、第1部の主張の繰り返しという面が強い気がします。

第4部 - コネクトニズム

本書のメインの部。最初の3章はコネクトームを得るためのテクノロジーの歴史と発展について、その後の3章でコネクトームから得られる情報についてです。

コネクトームと記憶の関係、コネクトームと個性の関係など、興味深いトピックが採り上げられてはいるものの、仮定や推測が多く、将来への展望という形での記述が目立ちます。

また、(特に人間の)コネクトームを得るのがいかに難しいか、という課題が何回か上がるため、コネクトーム研究の実現性への期待値が若干下がります(ぇ。

第5部 - 人間の限界は超越できるか

コネクトームの理解が、冷凍保存からの復活や、脳のシミュレーションといった「人間の限界の超越」に対してもたらす可能性について。おまけと言えばおまけですが、脳の仕組みと人格の関係性について考える研究では避けては通れないポイントでもあります。しかしやはり仮定の話が多いです(さすがにここでは仕方ないかもしれませんが)。