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悪魔を生み出す簡単な方法とは:『ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき』

満足度:★★★★★

かの有名なスタンフォード監獄実験の詳細について、準備から実施、そして振り返りまでまとまった形で読めただけでも価値のある本でした。

ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき

ルシファー・エフェクト ふつうの人が悪魔に変わるとき

現実として起きてしまったアブグレイブ刑務所における虐待問題への切り込みや、スタンフォード監獄実験やアブグレイブ刑務所では悪い方向にいってしまった「状況の力」を逆に利用して英雄を生み出す方法について書かれた後半パートも読み応えがあります。しかしながら、やはり著者が第一人者として関わっているだけあって、スタンフォード監獄実験の物語性、臨場感が抜群です

この実験の囚人役の参加者が後に

「…本物の刑務所が、ここで体験したものにもし多少とも近いなら、囚人にどう役立つのかさっぱりわかりません」

と語っている通り、本文で記されているこの実験の監獄の様子は本当に酷いものでした(実際の刑務所はもっと酷いらしいのですが…)。このような惨状が、ただ”看守役”という役割とその役割を全うするためのルール(システム)を与えられた「あらゆる観点から見て"普通"な人」によって、たった数日の内にもたらされた、という事実は驚愕です。

そしてその”悪魔”への変貌が、ルールへの服従心や、集団への帰属欲求、承認欲求といった人間の普遍的な特質からきているものとされる以上、「私は大丈夫、彼らとは違う」と自分との関係性を否定できるものでもありません(私は状況や他人に影響されやすいので、特に)。

  • 自分が周りの環境から受ける影響を自覚する
  • 他人も周りから影響を受けているということを考慮し、不正を犯した個人へのバッシングに安易に賛同しない
  • 個人がスケープゴートにされている可能性はないか、その裏にあるシステムに不備がないか、という視点を持つ

といった事を心がけ、無自覚に個人を責め、状況の方を改善すべきという視点を失わないようにしたいものです。

最終パートで示された「英雄を生み出す方法」についての研究が進み、人を善行に導くシステム(こう書くと何だかディストピア感が!)が上手く機能する世の中になることを願っています。

ルシファーエフェクトというタイトル

もともとは天使であり神のお気に入りであったルシファーが堕天し悪魔(サタン)になったという話から、良い人も悪魔に変わり得る、という意味合いで付けられたようです。

Philip Zimbardo - Wikipedia, the free encyclopedia

Lucifer was once God's favorite angel until he challenged God's authority and was cast into Hell with all the other fallen angels. Thus, Zimbardo derives this title to explain how good people turn evil. Zimbardo's main assumption on why good people do terrible things is due to situational influences and power given from authority.

TED Talk

「The psychology of evil」というタイトルで講演されています。