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本やゲームの感想など

キメラ動物と臓器工場の是非:『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命』

今回取り上げる本は『生命の未来を変えた男 山中伸弥・iPS細胞革命』です。

山中伸弥教授の伝記のように感じるタイトルではありますが、内容の主題はむしろ『iPS細胞革命』で、iPS細胞の研究を中心とした医療技術革新がもたらす未来の医療の可能性とそれに伴う倫理問題や、iPS細胞の国際競争の情勢がわかりやすくコンパクトにまとめられています。

商品紹介引用

ノーベル賞を受賞した山中伸弥京大教授が発見したiPS細胞は、生命の未来を変える可能性を秘めた万能細胞だ。再生医療に創薬、臓器工場からキメラ動物まで、日々研究が加速するiPS細胞の最前線をNHKのスタッフが徹底レポートする。立花隆国谷裕子、山中教授による「生命の神秘」をテーマにした鼎談(*1)インタビューも収録。

一言感想

山中教授が iPS細胞やそれに関係する医療技術の倫理問題や社会での受け入れられ方に非常に気を配られている点が印象的でした。

「iPS細胞革命」とは切っても切れない関係にある倫理的な問題について、「技術に善悪はない」とおざなりにはせず、積極的に情報の発信や社会同意の形成に腐心されているようです。

技術を進歩させるだけではなく、その技術を適用して社会全体を良い方向に導きたい、科学者としての責任感を感じました。

内容の一部紹介

キメラ動物と臓器工場

iPS 細胞を活用し、ヒトの臓器を他の種の動物の中に作り出すことで、病気のメカニズムの解明や移植用の臓器の生成を行う研究が進められています。

2013年8月、政府の総合科学技術会議生命倫理専門調査会は、動物の体内でヒトの臓器を作る研究をするために動物とヒトのキメラ胚を動物の子宮に戻すことを容認する、という結論を出しました(*2)。

今後の行く末はわかりませんが、頭以外がヒトの臓器でできたキメラ動物を培養する臓器工場が運営され、そこで生産された臓器の移植を受ける未来が来るのかもしれません。

同性同士の子供を生み出せる可能性

iPS細胞の持つ万能性には、皮膚などの細胞から精子卵子といった生殖細胞を作り出せる可能性が秘められており、実際にそのような研究が進められています。

この研究は、先天的に精子卵子のできない患者から作り出した iPS 細胞を使って精子卵子になるまでの過程を観察することで、その過程のどこに異常があるのか、どうすれば異常を克服できるのか、といった病気のメカニズムの解明、治療法の確立に役立つことが期待されています。そのため、iPS 細胞から作られた精子卵子を直接受精させる意図はありません。

しかしながら、受精させることは技術的には可能となり得るため「男性同士のカップルのそれぞれの皮膚細胞から卵子精子を作り出して受精卵を生み出し、代理母に出産を依頼する」といったことが実現するかもしれないのです。

そして生殖細胞精子卵子)と違って取得が容易な皮膚細胞などから生殖細胞が作り出せるという事実は、相手の同意を得ず採取した細胞を使って子供を作ったり、死者の細胞を使って子供を作るといったことが容易に行えるようになりかねない、といった懸念もはらんでいます。

最後に

科学の発展によってコントロールできる範囲が広がり選択肢が増えるほど、「何がしたいのか」、「どこまでは許せるのか」という科学では割り切れない問題を考えなければなりません。

医療技術と生命倫理については、当事者としてどのような治療を受けたいか、という選択にも関わるので、今後も興味を持って追っていきたいと思います。

*1:ていだん:三人が向かい合いで話をすること。その話。

*2:生命倫理専門調査会(第74回)議事次第