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本やゲームの感想など

最多の細胞いえますか?:『人体 ミクロの大冒険 60兆の細胞が紡ぐ人生』

読書 科学 健康

今回取り上げる本は、NHKスペシャル『人体 ミクロの大冒険』の書籍版、『人体 ミクロの大冒険 60兆の細胞が紡ぐ人生 (角川書店単行本)』です(最多の細胞の正解はこちら*1)。

内容紹介引用

人はどのような細胞の働きによって生かされ、そして、なぜ老い、死ぬのか。生命が40億年の歳月をかけてつくりあげた壮大な仕組みを知り、命の尊さ、命を育む環境に思いを馳せる。本書は私たちが個として生まれ、成長し、死ぬ仕組みを読み解こうという壮大な「旅」である。

一言感想

学習や免疫といった高次機能の説明が細胞レベルの働きまで還元してあることで「人体は細胞の相互作用でできており、その仕組みは科学で解明できる」という事実を明白に感じることができました。

人体の仕組みの凄さや将来の医学の可能性、あるいは倫理的な危険性に触れることのできる良書だと思います。

内容の一部紹介

妊娠中に母親が痩せていると子供は太りやすくなる:その理由は?

これは子供(の細胞)の生存戦略によるものと考えられています。

細胞の中には間葉系幹細胞という、脂肪や骨、軟骨、筋肉になることができる多能性(複数の細胞に変化できる能力)を持つ細胞があります。そして、この間葉系幹細胞がどの細胞に変化するかはその細胞が置かれた環境で決まります。

さて、母親に栄養が足りない状況が続くと、胎内の子供の中の間葉系幹細胞では「外の世界は栄養状態が悪いようだ。飢えを凌げるように、脂肪を蓄積しやすくしよう」という判断がなされて(もちろん「判断」というよりは「反応」ですが)、脂肪細胞化が促進されます。さらにはそれが、一時的なものには留まらず代謝にも影響して将来の太りやすさにも影響を与えるのです。

(ちなみに、母親が栄養過多の状態にあった場合には子供が太りにくくなる、といった結果は得られていません。あくまで生存に問題のある可能性がある栄養不足の場合にのみ子供の細胞は積極的な対応をとるようです。)

思春期とは何か

思春期を理解する鍵は脳の成長の仕組みにあります。

脳は生まれた後に経験を通して神経細胞の結合を変化させる可塑性という性質を持っていますが、可塑性は一生維持されるものではなく、ある時期に鈍化・停止します。

大人になると外国語の習得や新しいスポーツの熟達が難しくなるのはこのためです。

可塑性が失われる時期、つまり脳細胞的な観点でみて大人の脳細胞へと変化する時期は脳内で一律ではなく、聴覚は3才、運動機能は10才といわれているように機能・領域によってばらつきがあります(具体的な年齢については諸説あります)。

中でも大人化が遅い領域が、複雑な意思決定や認知を制御する前頭前野で、その完成の時期は20才前半とされています。

この、脳の成長のタイミングの差が思春期を生み出しています。思春期とは「理性や判断を司る前頭前野の部分が未完成でありながら、運動機能や欲望を司る他の部分は大人化している時期」のことなのです。

(ここまで読んで「全ての領域で可塑性を維持させ続けた方が良いのでは?」と思った方は鋭いです。臨界期が存在する理由を一言で説明しようとするならば「可塑性の維持には多くのエネルギーが必要で、固定化したほうが効率的に動かせるから」です。本書中にはもう少し詳しい説明があります。)

ビジュアル版について

本書読了直後にビジュアル版(NHKスペシャル 人体 ミクロの大冒険 ビジュアル版―細胞のミラクルワールド)も読みました。「バイオイメージングを中心にビジュアル化にこだわって番組作った」とするだけあって美しく幻想的なイメージが多数あり、こちらも一見の価値がある本です。本書の説明の一部抜粋が掲載されていますが、ビジュアル版の説明だけでは理解がしにくいと思うので、両方併読することをお勧めします。

一方で「静止画ではよくわからない」と言わざるをえない画像もところどころありますので、このプロジェクトの全てを楽しむには「映像を見る」→ 「本を読んで理解を深める」 → 「ビジュアル版で復習する」という流れが一番かと思われます。

(ビジュアル版じゃない方の書籍に全く挿絵がないことについては「ビジュアル化にこだわった番組の書籍版」としてどうかとは思いますけどね。白黒でも理解に支障がない画像については入れておいて欲しかったです。)

*1:赤血球。人体の細胞60兆のうち20兆ほど、つまり1/3程度が赤血球