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本やゲームの感想など

ゲーム感想:『Doki Doki Literature Club!』

「子供や心の弱い人にはオススメできません」

というフレーズで少し前に話題になった『Doki Doki Literature Club!』をクリアしました。

ddlc.moe

とりあえず、気になった人はやりましょう!無料ですし、最後まで(スタッフロール見るまで)プレイするのにかかる時間もだいたい 3, 4 時間くらいで済みます。非公式の日本語化パッチもあります。英語の難易度は高くないですが、筆記体が読めないとキャラクターの1人の詩を読むのが辛いです(私は読めないのでほぼ飛ばしました…)。

ホラー要素っぽいものがあって恋愛ゲームにしては新鮮味がある、といった単に奇をてらった脅かしではない、面白い仕掛けを体験することができます。


以下、ネタバレ注意。
























キャラクターによるキャラクターであるという認知、というメタ的な仕掛け。最近いくつか他の作品でもメタなネタの例を見るようになっている気がしますが、挑戦的でオリジナリティがあって面白いものが多いです。

今回の肝は「恋愛ゲームで攻略対象ではないキャラクターが、自分や周りの『友達』は恋愛ゲーム内のキャラクターであるということを認識しており、さらにゲームそのものに対して(というよりむしろ『現実』に対して)一定のコントロール能力を持っている」ゆえの悲しみ、苦悩…みたいなものでしょうか。

周りの『友達』が自由意志もなく『主人公』に惹かれるように作られていること。

自分はゲームシステム的に「攻略対象」ではないので『主人公』(= プレイヤー = 唯一『キャラクター』ではない存在)に好かれることがないということ。

その状況を打開すべく自分にできる方法でゲームシステムや『友達』を操作するも上手くはいかず、果ては『友達』を削除するに至ること。

自分や周りの『友達』の存在そのものが「ファイルを消す」だけで消えるような希薄なものであると自覚しているということ。

...

最終的には彼女のファイルを削除することで次のステップに進むわけですが、その結果次のキャラクターが部長に昇格し、同じような認識を得るというどん詰まり(CGを全部集めれば若干救いがあるような感じにはなりますが、その先には何もない)。。。


自分の存在の希薄性や存在意義のなさ、もしくは存在意義が予め決定されているという状況に苦悩する話を上手くゲームに落とし込んだ作品だと思いました。


あと、クリア後に調べて以下の動画で知ったのですが、ゲーム本編ではないところにある「仕掛け」も凄いです。そしてこの謎を解いた人々はヤバいです(音声ファイルに変換して波形をQRコードとみなしてURLを取得する!?)。この中で示唆されている続編(というか前編というか)が実際に登場するのか、楽しみです。


Game Theory: Doki Doki's SCARIEST Monster is Hiding in Plain Sight (Doki Doki Literature Club)

正しい質問の力:『Wait, What?』

Wait, What?: And Life's Other Essential Questions

Wait, What?: And Life's Other Essential Questions

ポイント

  • "Wait, What?"
    • 議論や否定に入る前にまず必ず事実確認を行うこと。
  • "I wonder...?"
    • 好奇心を忘れずに。
  • "Couldn't we at least...?"
    • とっかかりを見つけて第一歩を踏み出そう。
  • "How can I help?"
    • 相手の自主性を尊重しつつ手を差し伸べよう。
  • "What truly matters?"
    • 目の前にある問題の肝は何だろう?自分にとって大切なことは何だろう?

感想

この手の本は基本的には当たり前のことを言っていて、その当たり前のことをどう読者に響かせるかがポイントだと思うのですが、個人的にはあまり…という印象でした。

読みやすくはあったのですが、少し無理をした説明や例でもって結論を表題の質問にまとめている気がします。とはいえ世間の評判(Amazon.com のレビュー)は良いようなので、自分のような見方の方が少数派な可能性は高そうです。

ページ数は短いですが、自分が購入した際には200円程度だったので、コスパは悪くありませんでした。

アルゴリズムから思考法を学ぶ:『Algorithms to Live By』

Algorithms to Live By: The Computer Science of Human Decisions

Algorithms to Live By: The Computer Science of Human Decisions

ポイント

  • 真に困難な、網羅的な計算で扱える範囲を超えた問題を扱うために、現代のアルゴリズムは運(ランダム性)、正確さと時間のトレードオフ、近似を利用している。
  • コンピューター・アルゴリズムが難しい問題やリソース(時間・メモリ)管理にどうやって対応しているかは人間の意思決定の方法の参考にできる。
  • そもそも計算(思考)というのは難しいものだから、なるべく計算しなくて済むように物事をデザインすべき。
  • 最適なアルゴリズムを学び、それに従っておけば、例え最適な結果が得られなかったとしても「自分は最善を尽くした」と諦められる。

感想

具体的に「この問題はこう取り掛かれば最善の結果が得られる確率が最も高い」という例もいくつか紹介されていますが、それよりもや上に挙げたようなふわっとした全体のテーマが印象に残りました(現実問題として、具体例を上手く使えるシチュエーションがあまりイメージできなかった、というのもあるかもしれませんが)。

「そもそも計算(思考)というのは難しいものだから、なるべく計算しなくて済むように物事をデザインすべき」は著書の中では「Computational Kindness」として結論の中で語られていましたが、 Nudge、行動経済学に通じるものがありますね。全くもってその通りで「どうすれば渋滞を回避できるか」、「どの保険を選べばよいのか」のようなことに(人間が)頭を使わずに済む世界になっていけばよいなぁと思います。

政府 × 行動経済学:『Inside the Nudge Unit: How small changes can make a big difference』

Inside the Nudge Unit: How small changes can make a big difference

Inside the Nudge Unit: How small changes can make a big difference

ポイント

人に何か行動を促したい時は以下の EAST 原則を意識する。

項目 要約
Easy 簡単にする。人は簡単で面倒でないことならする可能性が高い。行わなければならないことは出来る限り単純化し、障害を減らす。選択ならデフォルトが一番良いものにする。
Attract 注意をひきつけ魅力的にする。受けての名前を出すなどのパーソナライズや、重要なポイント・受け手にとってのメリットの強調する。専門家の名前を出すなどして信頼できるものにする。
Social 社交性を利用する。人は他の人の行動を強く参考にする。他の人が既にやっているということを知らせる。他人の目を意識させる。
Timely 適切なタイミングで知らせる。(悪い)習慣が固まる前に介入する。

感想

イギリスの Behavior Insight Team が政府としてどのように行動経済学を活用して、税金の回収率を上げる、再就職率を上げる、より効果的な教育方法を探す、といった活動を行ったかということを、その当事者が書いた本。

具体的な事例が多く、また「正しく公正であること」が期待される政府としてそのような活動を行うことの難しさなども書かれており、理論や研究室内では終わらない実世界の話を知ることができました。

他にもヘルメットの着用を義務化したら自転車の盗難が減った*1ことや、ガスの種類が変わったことで自殺数が減った*2など面白い話もあり、コストパフォーマンスは良い本だったと思います。

*1:盗む側が事前にヘルメットを用意しておかないと、盗んだ自転車にヘルメットなしで乗っていたら止められて捕まる可能性があるため

*2:中毒死しにくいガスになった。命のような重大な問題においても、多くのケースでは「ガスがダメなら他の手段で…」とはならず、手段の用意が面倒になれば自殺を止める方向にいくらしい

システマチックに改善を続けるために:『Principles』

Principles: Life and Work (English Edition)

Principles: Life and Work (English Edition)

ポイント

  • 判断基準・ルールを明確にし、言葉やコンピューターアルゴリズムの形で書き出す。
    • 誰もがその基準・ルールを活用し、妥当性を評価し、改善できる。
    • アルゴリズム化できれば、自分の頭の中には収まらない量のデータを高速に扱える。
  • 問題の真の原因を追求すること。
    • 「私たち」のような曖昧な言葉を使わず「誰の」という個人名まで明らかにする。
    • 問題に至った動作(もしくは動作の不足)で止まらず、それがなぜ起きたかまでを突き詰める。
  • 他人に起こったこと、自分が生まれる前に起こったことを含めて、過去の事例から学び、準備すること。
    • ほとんど全てのことは「よくあること」の1つで、論理的な因果関係を理由に繰り返し起こる。
    • 目の前のことは大きくみえる。俯瞰的に捉えること。
  • 苦痛や問題は改善の可能性・機会である。
    • 痛み + 反省 = 前進。
    • 問題を特定し、容認しないことは最も重要なことの1つである。
  • 決定がもたらす一次的な影響に重点をおきすぎず、2手、3手先への影響まで考える。

感想

特に参考にしたいと思ったポイントは「判断基準を明文化する」ことと「決定がもたらす先の影響までを考えること」。

「判断基準を明文化する」については、例えば「暇な時に何をするか」とか「夕食は何にするか」のような日常の些細なことでも、頭が働いている時に作ったルールに従う、ということ自体に価値はありそうです。ルールに沿うだけで良ければ意志力の消費も少なく、長期的に見て良い行動を選択しやすくなるのではないかと。

「先の影響まで考える」については、あらゆる決断でついて回る話なので。間食をする → 直近の満足感・快楽は得られる → 後で後悔する・健康にマイナスの影響がある(と心配してしまう)、夜更かしして漫画を読む → 楽しい → 翌日辛い、などのような小さなことから、仕事を最低限の形でこなす → タスクを完了したという満足感・開放感が得られる → 後で不具合や技術的負債に苦しむ、といった仕事のことまで。先のことを考えるべきというのは当たり前と言えば当たり前なのですが、この意識を持ちつつ判断基準を事前に明確にしておくことで、普段から後で後悔しない決断を繰り返せれば良いなぁと思いました。

著者については TED での登壇なども含めて YouTube にいくつか講演、インタビューの様子が上がっており、本人のチャンネルもあるので、たまに見返すと復習になりそうです。


Ray Dalio: "Principles: Life and Work" | Talks at Google