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本やゲームの感想など

書評:『Pythonクローリング&スクレイピング -データ収集・解析のための実践開発ガイド-』

wget + sed を使ったクローリング&スクレイピングのコンセプトの紹介に始まり、クローリング先の Web サイトに迷惑を欠けないための配慮(クローリング間隔の設定、robots.txt の解釈など)やデータベースへの保存など周辺知識についての説明も交えながら数多くのライブラリを使ったクローリング&スクレイピングの実践手法を丁寧に解説している良書でした。

一つ一つの手法(ライブラリ)を深く説明するというよりは、目的に応じた手法をたくさん紹介しているという形式なので「こんなことがやってみたい」というアイディアがあれば「これを使えば良さそう」というのが何か見つかると思います。見つかった後は、それについてネットで調べたり、それ専門の本を読むと良いでしょう。自分はひとまず「Robobrowser」を使う方法に落ち着きました。概念がシンプルでわかりやすいのが魅力的です。

逆に最初から最後まで一度に全部手を出そうとすると息切れしそうなくらいのボリュームだったので、一部は「こんな手法もある、こんなこともできる」ということを把握するくらいに留めました。必要になったとき・ステップアップしたいと感じたときに改めて参照したいと思います。

また、ライブラリの紹介とは別に特にこの本から知ることができて良かったのは Chrome の「検証」機能です。右クリックメニューに「検証」という項目があり、それを押すと html 中のその要素を見ることができるのですが、さらにそこで右クリックを押すと「Copy」からスクレイピング時に利用できる selector や XPath を取得できる、というもの。

Web 開発者には常識的な機能なのかも知れませんが、実際に自分がスクレイピングを行いたいサイトの構造を調べるためにとても役立ちました。

良い本に出会えて感謝です。

イノベーションではない:『イノベーション・オブ・ライフ』

イノベーションのジレンマ』などの著書を持つ、ハーバード・ビジネス・スクールの教授の人生訓に関する本。

その有名な書籍にちなんでの邦題だと思うのですが、さすがに内容と関係なさすぎるでは…。『イノベーション・オブ・ライフ』をあえてさらに訳すと「人生の革新」になりますが、「革新」って感じは全然ないです。

原著のタイトルは『How Will You Measure Your Life?』。直訳的には「人生をどう測るか」。

このタイトルからは多少なりとも定量的な話が出てくることを期待していたのですが、「Mesaure」については「自分の人生の目的・指針を深く考え、それによって人生を測るべき」という質的な言及に留まるものでした。やはり万人に当てはめられる人生の指標の測定方法などは(そもそもその指標自体が各自でバラバラなのでプロセスとしても)明示できない、ということでしょう。

ビジネスの理論を人生に応用する、という形式で話が進められます。大筋自体に特に目新しさを感じる部分はありませんでしたが、以下の言葉は具体性がありイメージしやすく、良いと思いました。

  • 金銭などの外的な報酬は「衛生要因」であり「動機づけ要因」にはならない。衛生要因を整えれば仕事の不満を減らせるが、「仕事に不満がある」の反対は「仕事に満足している」ではなく「仕事に不満がない」である。それだけで仕事を好きにはなれない。
    • 最低限満たさなければ病気になるが、ある程度以上にしても健康を増進はしない、ということから名付けられた「衛生要因」という名前がわかりやすいです。
  • 目的のために製品・サービスを利用して「用事を片付ける」という考え方は人間関係にも当てはめられる(もちろん「用事」は物理的なタスクだけではない)。家族、友人、同僚は自分に何を片付けて欲しいのだろうか?と自問しよう(そして実際に片付けよう)。
    • 「用事」という具体的な問題を想起させる用語が良いです。

逆に後半に出てくる「限界費用」、「限界利益」という概念は私には馴染みがなかったのでわかりずらかったです。会計関連の知識があるとスッと腑に落ちるのかもしれません。

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ

地頭でもなく論理的思考力でもなく:『採用基準』

「リーダーシップを持ち、問題を自分でコントロールし解決に導くという姿勢が何よりも重要である」というお話。リーダーシップという言葉に抵抗があれば「結果に対する当事者意識」と言い換えても良いかもしれません。

リーダーシップの重要性、リーダーがなすべきタスク(目標を掲げる、先頭を走る、決める、伝える)についての主張は明確です。ただし、具体的にどのようにリーダーシップを学んでいけばよいのか、については課題が残ります。

マッキンゼー流リーダーシップの学び方」という章はありますが、「マッキンゼーではこういう環境が整っているからリーダーシップが育まれる」という話題であり意識の問題に帰結するため、なかなかそのまま転用はし難いでしょう。もちろん強い意志を持って意識し続けられれば良いのですが…。

リーダーシップの重要性を再認識できたことを初めの一歩として、「じゃあ自分は今の環境・立場でどうするか」を考えることが二歩目になるのかと思います。

採用基準

採用基準

成果 ÷ 投入リソース =:『生産性』

※ だいぶ流し読みです。

個人的な活動に応用できる範囲はもちろんがありますが、組織のマネージメントや人材育成に関する話が主題です。

前著『採用基準』で「個人の資質」としてリーダーシップが重要であると主張されていたのに対し、本著では「組織の指標」としては生産性が重要であるという主張です(主に組織の話、というだけで、指標として生産性が重要なのは個人も同じです)。

そして組織としての生産性の向上にはその構成員である個人や組織が適用する制度・仕組みの生産性を上げる必要があるが、そのためにどうするか、という点について評価、育成、会議、研修などを挙げて解説しています。

生産性が重要である、というのは何ら目新しいものではなくむしろ当たり前のことです。ざっと読んで生産性の重要性を再認識しつつ、何か拾える具体的な策があればそれを試してみる、それくらいの読み方で良いのではないかと思います。

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

生産性―――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの

著名思想家4人によるディベートの結果は:『人類は絶滅を逃れられるのか』

「人類の未来は明るいか」というテーマについて、肯定派にスティーブン・ピンカー(「暴力の人類史」などの著者)とマット・リドレー(「繁栄」などの著者)、否定派にマルコム・グラッドウェル(「天才!」などの著者)とアラン・ド・ボトン(「旅する哲学」などの著者)を迎えて行ったディベートを本の形でまとめたもの。

人類は絶滅を逃れられるのか―――知の最前線が解き明かす「明日の世界」

人類は絶滅を逃れられるのか―――知の最前線が解き明かす「明日の世界」

全体的な論調としては、肯定派の2人は「多くのデータが人類が進歩してきたことを示しており、それを可能にしてきた要因は今も存在するため進歩が止まると考える理由はない。故に人類の未来は明るいと考えられる」と主張。

それに対してマルコム・グラッドウェルは「人類が進歩してきたこと、多くの改善があったことは認めるが、それは同時に個人や小規模な組織が持ち得る力も増大させ、リスクの質が変容した。核戦争を筆頭に、未来には今までにはありえなかった規模の損害・衰退が発生する恐れがある。故に未来が明るいとは言えない」、アラン・ド・ボトンは「どんなに科学が発展し社会が豊かになっても人間の本質的・内面的な愚かさは変えられず、誰もが幸福で完璧な世界は実現できない。人類の未来が明るいと考えるのは傲慢であり、謙虚な姿勢を持つべきだ」と主張。

肯定派2人とマルコム・グラッドウェルの話は基本的に理解できたのですが、アラン・ド・ボトン氏の主張はイマイチよく掴めませんでした。本文中でも肯定派から突っ込まれていましたが「完璧」という言葉を持ち出したり、「人類の未来は暗いと考えておくことは未来に備える上で有用な心構えだからそう思っておくべきだ」という形の主張があったりと、論点のずれを感じました。

短くさらっと読める反面、個々の主張は短く、対戦形式のディベートという性質上どうしても粗探しっぽくなっている箇所もあります。

肯定派の2人については、それぞれの著書がこの本での主張とほぼ対応しているので、そちらを読む方がオススメです。